当法人は、私立学校を営んでいます。
非常勤講師の1名が授業中に次のような発言を複数回の授業でしました。
・「18歳で性交渉をすると気持ちいいんですね」
・男子学生に「性格悪いから彼女いないんでしょ」
・女子学生に「美人じゃないと損するんだよということ」
生徒からも苦情が出ています。
この先生を雇止めにしたいのですが、どのようにすればよいですか。
【回答】
学生アンケート等で言動を確認し、その上で、非常勤講師から聞き取りを行います。
事実関係が認定できた場合には、指導を行います。
その上で、改善しないような場合には、契約期間が満了するタイミングで、退職の提案を行うことになります。
退職に応じなければ雇止めも考えられます。
ただし、雇止めをした場合には法的紛争になるリスクもあるため、弁護士と相談しながら対応に当たることになります。
1 雇止めの理由
経営者の方とお話をしていると「アルバイト(非常勤講師)だから契約更新をするかしないかは学校で決められるはずだ」とよく言われます。
確かに、原則的には、契約期間が終われば契約は終了となります。
しかし、労働契約法19条(参考資料1)という重大な例外があります。
労働契約法19条では、労働者が更新に合理的な期待を抱くような場合には、雇止め(契約更新をしない)には、契約を更新しない理由(客観的合理性と社会的相当性)が必要となります。
そのため、単に「評判が悪いから」「不適切発言があったと苦情が出ているから」というだけで雇止めにすると、雇止めが無効となり、数年分の賃金支払いを要する事態になりかねません。
実際に、裁判官を説得できず、雇止めが無効となり、数年分の賃金の支払が命じられた事案もあります。
このため、非常勤講師への対応には、戦略的な対策が不可欠です。
2 対応のステップ
(1)まずは事実関係を確認する
上記の非常勤講師の言動が本当にあった場合、生徒に対するセクシャルハラスメントに該当しかねません。
このため、まずは、事実関係を確認することになります。
裁判例1は、同種の言動を理由に雇止めを認めた事案です。
学校は、生徒からの連絡を受け、アンケートを実施しました。このアンケートの結果、上記を含む複数の言動が確認できました。
その上で、参考裁判例1では、この非常勤講師からヒアリングを行いました。
その中で、非常勤講師が一部の言動を認めました。
このような事実確認を経たうえで、厳重注意等の事後対応を講じることになります。
(2)非常勤講師に対する厳重注意等の実施
非常勤講師に対して警告のための処分や厳重注意を行います。
これらの処分は書面で行うことにより、指導の記録や問題行動の記録を残せます。
懲戒処分の実施には就業規則に懲戒の事由や種別に関する規定が存在し、当該規定が周知されていることが必要です。
また、就業規則所定の手続きを経て懲戒処分を行うことが必要になります。
手続きについての規定がない場合にも、弁明の機会を与えることが必要です。
(3)指導後も改善がない場合には退職勧奨や雇止めを行う
指導を経ても問題行動が改まらない場合には、退職勧奨を行います。
退職勧奨を経ても退職をしない場合には、雇止め(契約を更新しないこと)が考えられます。
雇止めの場合は、契約満了日の30日前に予告することが雇止めを有効にするためには有益です。
ただし、冒頭で述べた通り、雇止めには法的なリスクもあります。
そのため、弁護士と相談しながらの対応が欠かせません。
3 まとめ
セクハラ発言を行う非常勤講師をそのまま残していれば、生徒や保護者からの不満やトラブルを誘発しかねません。
このため、厳正な対応が必要です。
他方で、非常勤講師と言えども、雇止め(更新しないという判断)には法的なリスクが伴います。
労働問題に詳しい弁護士のサポートを受けながら、円満解決を目指すことが極めて重要となります。
参考資料
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 (略)
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
参考裁判例1:東京地裁R5/4/14判決 東京高裁R5/10/23判決
非常勤講師(週1コマ)が授業中に「18歳でそういうこと(性行為)やると気持ちいいですね。」「性格悪いから彼女いないんでしょ。」「どちらかというと美人じゃないと損するんだよ。」等と発言をした事案。学校は生徒からのアンケートと本人からのヒアリングを基に事実認定を行い、2年目の終わりをもって雇止めとした事案。
裁判所は、「原告が担当した生徒指導論が必修科目であること」等から「原告は、本件労働契約が更新されることについて一定の期待を有していた」と判断した。
その上で、裁判所は、原告の発言は必要性がなく不適切である上、不快感を抱いた学生が複数存在したこと、更新の合理的期待の程度が高いといえないこと等を踏まえ、雇止めは合理的と判断した。