正社員の求人に応募した人材とアルバイトの契約を結ぶ際の注意点

弁護士の稲田拓真です。

今回は、無期雇用の求人票で募集した従業員との間で、有期雇用の契約を締結したところ、無期雇用の契約となった事案(大津地裁令和6年12月20日判決労判1329-36)を紹介します。

 

事案の概要


会社は、令和5年5月30日頃、求人票を出して求人を行なっていました。

この求人票には、「雇用形態 正社員」「雇用期間 雇用期間の定めなし 試用期間 試用期間あり 期間2か月間」等と記載されていました。

 

労働者Aは令和5年6月19日にこの求人票を見て会社に応募、会社は、翌20日に採用をしました。

その採用時、B(会社の従業員)は、会社の代表者の許可を得て、労働者Aに対し、電話により連絡しました。

Bは、労働者Aに、同年7月1日を就労開始日として本件内定通知をし、労働者Aはその場で、会社で就労することを承諾しました。

ここまでの間で、会社は、労働者Aに対し、雇用期間が2か月であることを伝えてはいませんでした。

 

このやり取りの翌21日、労働者Aは、会社の事務所において、被告代表者らと面談し、雇用契約書を作成しました。

この雇用契約書には「雇用期間 令和5年7月1日〜令和5年9月30日」と、求人票と異なり有期雇用であるとの記載がありました。

 

労働者Aは令和5年7月1日から働き始めました。

そうしたところ、会社は、労働者Aを引き続き雇用しないことを決め、雇用契約書に沿って、令和5年9月30日をもって雇用契約を終了としました。

その後、会社は、労働者Aの以降の就労を拒否しました。

 

そうしたところ、労働者Aは、自身は求人票どおり期間の定めのない契約であり、会社による9月30日付の労働契約の終了は不当解雇であるとして、令和5年10月1日以降の賃金を請求しました。

 

本件では、労働者Aの労働条件は求人票どおり無期雇用か、雇用契約書どおり有期雇用かが争いとなりました。

 

裁判所の判断


裁判所は、「本件求人票においては、配置先、採用職種、仕事内容、身分、賃金といった労働契約の要素が概ね具体的に特定されている上、本件内定通知の際に原告に勤務開始日が伝えられ、原告がこれを了承していることからすると、本件内定通知時点では、原告と被告との労働契約の内容が具体的に定まっている〔中略〕本件内定通知時点において、被告により原告との労働契約締結時に何らかの留保が付されたことは伺われないことからすると〔中略〕本件内定通知は、原告の求人応募という労働契約の申込みに対する被告の承諾の意思表示と見ることができ」るとして、求人票どおりの無期雇用の労働契約が成立したと判断しました。

 

その上で、裁判所は、雇用契約書において2か月間の有期雇用とした点について、無期雇用を2か月間の短期の雇用期間に変更する合意は、重要な労働条件の変更であり、労働者による真意に基づく同意が必要となるが、このような同意を取得するための説明等がなされた証拠がないとして、雇用契約書により「雇用期間の内容が有効に変更されたものとは言えない」と判断しました。

 

最終的に、労働者の地位確認を認め、会社に対し、令和5年10月から判決(令和6年12月)までの14か月分の賃金(約350万円)の支払いを命じました。

 

実務対応ワンポイント 採用内定の伝え方に注意


正社員(無期雇用)で募集した従業員をアルバイト(有期雇用)であれば雇いたいと考えるケースは決して少なくありません。

このような場合には、採用内定の伝え方が大切になります。

 

本件では「本件内定通知時点において、被告により原告との労働契約締結時に何らかの留保が付されたことは伺われない」と判断されたことが、無期雇用となった原因です。

このため、採用内定を伝える際には、次のような言い方を工夫することになります。

 

「 面接等の内容を踏まえて、2か月間の有期雇用としての採用内定を検討しております。詳しい条件について調整をしたいので、●●日に当社にお越しいただくことは可能でしょうか。」

 

証拠を残すために、連絡はメールで行うことをお勧めします。電話で伝える場合には、録音を残すなどの工夫も必要です。

 

また、少し遡って、面接の場面などで、契約書を交わした時点で採用が決定となり、それより前は採用が決まったわけではないということを確認しておくこともトラブルの予防には有益です。例えば、面接前に、次のようなチェック項目にチェックを入れてもらった上で、面接に臨むことも考えられます。

 

□貴社との労働契約は、貴社との間で雇用契約書を交わしたタイミングで成立し、それ以前の段階では成立をしないことを理解しました。

 

これらのチェックボックスや採用内定時の伝え方の工夫により、労働者の誤解を防ぎ、トラブルが生じないようにすることが大切です。

 

監修弁護士

稲田拓真 弁護士

【プロフィール】

 

岡山大学法学部卒業。2019年に弁護士登録(第一東京)。2024年より岡山弁護士会所属。主に企業側・経営者側の労働事件について代理人として、団体交渉事件、解雇訴訟、残業代請求労働審判事件、問題社員やミスマッチトラブルへの対応に取り組む。

経営者と従業員が元気な企業を増やしたいとの想いで日々の業務に取り組んでいる。

 

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