弁護士の稲田拓真です。
今回は、中途採用をした従業員が問題社員であった場合に、会社としてどのような対応を講じるべきか、従業員15名の会社で対応に成功した裁判例(さいたま地裁令和4年4月19日労判1329号82頁)を題材に見てみましょう。
1 事案の概要
この事案の被告は、出版及び出版販売を目的とする株式会社であり、従業員数は約15名でした。
原告は、令和元年11月5日、被告に試用期間3か月(満了日令和2年2月4日)で雇い入れました(給与は月額35万円)。
原告は、同業他社でも書籍の売り込み等を行なっておりそのような実績をアピールして入社した経緯がありました。
しかし、原告は、雇入後、次のような問題行動を引き起こしました。
(1) 営業会議で帯の制作中止が決まったにもかかわらず関係部署に伝えずに無用な帯を作成させる
(2)売れ行きの芳しくない書籍があるにもかかわらず電話営業時に担当者不在を理由に再荷電しないなど営業活動を怠り、売上げ目標も未達であった、
(3)帯を勝手に取引先に送付し、会社の指示に沿った在庫の報告もしなかった
(4)令和2年1月20日頃、原告の配偶者らしき人物が、被告の実名を挙げて「パワハラが起きている」等とSNSに投稿したり、被告に電話をかけ、電話越しに叫び声をあげるなどし、この直後の令和2年1月23日以降、原告は、体調不良等を理由に出勤を拒否した。
また、(1)の件について、被告が始末書の提出を求めたところ、原告は、反省点をずらす、自分は悪くない等と述べるなど反省の様子が見られませんでした。
被告は、令和2年1月27日、原告に対し、同年2月4日限り、試用期間満了により、原告との間の雇用契約を終了させる旨の通知をしました。
この試用期間満了による雇用契約の終了の有効性が問題となりました。
2 判断
裁判所は、「原告は、経験者として採用されたにもかかわらず」上記のようなさまざまな問題行動を繰り返しており、「かかる原告の勤務態度、業務成績、勤怠等を踏まえれば、原告は、小規模出版社である被告の営業職としての適性を有するとは認め難いところ、かかる事情は、被告が原告について本採用を拒絶し、試用期間満了をもって契約を終了させることにつき、やむを得ない事由に該当するというべきである。」と判断しました。その上で「本件解雇は有効であり、本件契約は令和2年2月4日の満了をもって終了した」として本採用の拒否が適法であると判断しました。
3 実務に活かすワンポイント 指導の記録を残すこと
試用期間中にさまざまな問題行動を起こしても、裁判所は本採用の拒否を認めないことがあります。
裁判例の中には、ミスを繰り返した看護師の本採用拒否を無効とし、当該看護師に対する800万円以上の支払いを命じた事案もあります。
このような事案がある中で、本件で解雇が有効となったのは、原告の問題点やこれに対する被告の指導について、細かな記録があったためです。
被告は、原告に、訪問営業の詳細を記載する営業報告書と1日の業務内容を時系列で記載する日報を作成していました。
この日報等は、A課長らが内容を確認し、疑問点や修正点があれば記載して原告に返却されるものでした。
このため、原告がどのような問題行動をしたのか、それに対して、どのような指導をしたのか、その指導に対して原告がどのようなリアクションをしたのかが、後から確認できる資料となっていました。
しかも、当日に返却をするなどしており、後付けで作ったものではないことがわかる作りになっていたことも伺えます。
本件では、裁判所もこのような日報をもとに、原告には改善の余地がないと判断し、本採用拒否を有効としたものと考えます。
本件の会社は、従業員15名程度の小規模な会社です。
このような会社では業務日報の管理自体、非常に手間となるところです。
本件でも代表取締役自らが日報の指導などを行なっており負担は窺えるところです。
それでも、業務日報のような記録を残さなければ、本採用拒否が無効となり、その結果、賃金2年分等の支払いを要する事態にもなりかねません。
この点、労働問題に詳しい弁護士のサポートを受けながら行うことで、事案のような中小企業であっても、問題社員の退職に役立つ証拠づくりを効果的に進めることができます。
実際に、過去には10名程度の小売業で業務日報のサポートをしたこともあります。
日報の事業主のコメントとして何をどのように書くべきか、助言をすることで、効率的な作成を補助できました。
問題社員で悩む会社の参考になれば幸いです。
監修弁護士
稲田拓真 弁護士
【プロフィール】
岡山大学法学部卒業。2019年に弁護士登録(第一東京)。2024年より岡山弁護士会所属。主に企業側・経営者側の労働事件について代理人として、団体交渉事件、解雇訴訟、残業代請求労働審判事件、問題社員やミスマッチトラブルへの対応に取り組む。
経営者と従業員が元気な企業を増やしたいとの想いで日々の業務に取り組んでいる。