この記事の結論
・欠勤の日数が14日以上、あるいは週1回以上の場合は特に注意する
・欠勤の理由が体調不良の場合は診断書の取得等の対応を取る
・欠勤理由に正当な理由がなければ、指導を重ねることが重要
・弁護士に相談してトラブルのない解決を目指す
従業員10名程度の中小企業などで、特定の社員がたびたび欠勤を繰り返している状況は、経営者の皆様にとって大きな悩みではないでしょうか。
他の従業員への業務負担増加、生産性の低下、そして何より「このままでは会社が回らない」という不安は切実な問題かと思います。
しかし、「欠勤が多いから解雇しよう」と安易に考えてしまうと、後々大きなトラブルに発展する可能性があります。解雇は従業員の生活に直結する重大な問題であり、法律による厳しい規制があるため、正しい知識と手順を踏むことが不可欠です。
今回は、よくある欠勤理由ごとに、欠勤を繰り返す社員の解雇などに向けた対応を見ます。
1 欠勤を繰り返す社員を解雇するにあたって考慮すべき事項
欠勤に対する懲戒処分や解雇の考慮要素は次のとおりです。
①職務懈怠(無断欠勤,出勤不良,遅刻過多,職場離脱等)の回数・期間,
②正当な理由ないしやむを得ない事情の有無,
③業務に及ぼした影響,
④使用者からの教育・指導・注意の状況,使用者側の管理体制,
⑤当該従業員の過去の処分歴,
⑥当該従業員の改善の見込みないし改悛・反省の度合い,
⑦過去の先例の存否,同種事例に対する処分との均衡など
1番の中心は①で、次が②となります。
2 欠勤を繰り返したら解雇になる目安
(1)連続した欠勤の場合
一般に欠勤が連続して14日を超えると解雇も視野に入ってきます。14日以上の長期間の欠勤を繰り返す社員は、月の半分近く働いていないことになるため、企業秩序への影響が大きいためです。
ただし、次から見るとおり、「正当な理由」があるかの確認が重要です。
(参考資料)
解雇予告手当の支払いを要しない「労働者の責めに帰すべき事由」として認定すべき例」の一つとして、「 原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」が挙げられている(昭和23年11月11日基発1637号)
(2)断続した欠勤の場合
出勤率が全体の出勤日数の8割を切るとイエローカードだと考えます。つまり、1週間に1回程度は休んでいるという状況です。
出勤率が8割を切るほど欠勤を繰り返す状況では、有給休暇も付与されません。
このような状況が続く場合には、指導によっては、解雇もありうると考えます。
また、出勤率が8割を超えている場合であっても、欠勤を繰り返す理由などによっては、解雇を見据えた対応が必要となるケースもあります。
(労働基準法39条1項)
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
(3)遅刻や早退もする場合
欠勤を繰り返すだけではなく、遅刻や早退も繰り返すような従業員であれば、解雇も視野に入れた対応が必要です。
例えば、6ヶ月間の遅刻回数が24日、事前の届出のない欠勤回数が14日、その間に完全な就労をした日数が全体の69%に過ぎない事案で、裁判所が懲戒解雇を有効とした例があります。
このため、指導などにより、改善の機会を付与しても出勤率が7割を切るようであれば、解雇も含めた対応になります。
(参考:横浜地判昭和57年2月25日)
上記のとおり、6ヶ月間の遅刻回数が24日、事前の届出のない欠勤回数が14日、その間に完全な就労をした日数が全体の69%に過ぎない事案で、裁判所は、「正当な理由がなく遅刻、早退または欠勤が重なつたとき。」との懲戒解雇事由があつたものと一応認められるとした上で、勤怠不良をあらためるようにとの警告が課長2名によつて繰返しなされたこと等を踏まえ、本件解雇が解雇権を濫用してなされたとの主張には理由がないと判断した。
3 「体調不良」を理由に欠勤を繰り返す社員はどうすべきか
欠勤の理由の中で多いのは体調不良です。この場合の対応は次のようなものです。
(1)診断書の提出を求める
「頭痛がするので休む」「しんどいから休む」とだけ連絡して欠勤を繰り返す従業員も中にはいます。そのような方については、まず、診断書の提出を求めます。特に、2週間で2回、4週間で4回欠勤するようであれば、このような診断書を求めるべきです。
(例文)
あなたは、2025年7月1日から7月末までの22営業日のうち6営業日に渡り、欠勤をしています。これらの欠勤について、体調不良という主張が出ていますが、貴殿より診断書が出ていません。
貴殿が就労できるのか確認をする必要がございますので、貴殿の主治医に対して、診断書(通院開始時期、今後の通院頻度の目安、通院期間の目安等を明記したもの)の作成を依頼するとともに、当社までご提供いただきたく存じます。本指示から2週間以内に該当の書面をご提供下さい。
事案によっては、このような指示を出した段階で、労働者側から退職の申し出がある場合もあります。
これは欠勤を繰り返す社員の中には、「体調不良と言っておけば文句を言われないだろう」と安易に考えている社員もいるからです。このような社員は、会社が文書を出した段階で、会社に居づらいと感じて辞めることがあります。
(2)診断書さえ出してこない場合には厳重注意を行う
「プライバシーである」等と理由をつけて診断書を出さずに、体調不良を理由として、欠勤を繰り返す社員もいます。このような社員について、「体調不良だから仕方ない」と諦めてはいけません。
診断書を出さない場合には、体調不良という理由は本当の理由ではないと判断し、欠勤に対して必要な処分をすることになります。
例えば、欠勤を繰り返した上、診断書等を提出しなかったことを理由に、文書による厳重注意を行うことが考えられます。また、就業規則が整っている場合には、始末書を提出させる等の懲戒処分を行うことになります。
懲戒処分を経ても勤怠が改善しない、あるいは診断書を出さない場合には、普通解雇も見据えることになります。
(3)診断書を出した場合、休職等により回復の機会を与える
体調不良の証拠となる診断書が出た場合には、診断書に沿った対応を行います。
例えば、診断書に、「1ヶ月の休養を要する」等とある場合には、1か月程度、休職させるなどして、回復の機会を与えます。
就業規則に休職事由がない場合にも、体調不良を理由に欠勤を繰り返す社員については、回復のために、休ませる期間を設けることが紛争のリスクを下げます。この場合は、少なくとも1か月以上、診断書の内容にもよりますが、3か月〜6か月程度休職させることで、法的なリスクを下げることができます。
なお、下記の調査等にも出ているとおり、従業員数が10名程度の企業であっても、一定の休職期間を付与しているようです。
(参考)
2022年の調査において、正社員規模が10名〜29名の職場における雇用保障期間(休職期間)の上限について、1か月以下が5.7%、1か月超から3か月までが12.7%、3か月超から6か月までが13.7%、6か月超から1年までが16.8%、1年超から1年6か月までが14.5%、それを超えるものが21%超となっています(無回答15%)
(「JILPT 調査シリーズ No.240 治療と仕事の両立に関する実態調査(企業調査)」労働政策研究2024.3・研修機構19頁)
(4)仮病のような診断書が出た場合の対応
体調不良を理由とする欠勤に際してよく出てくるのは、メンタルヘルスの病気に罹患したという診断書です。事案によっては、本当にメンタルヘルスの問題があるのか疑わしいと感じるケースもあります。
ただし、労働者の提出した主治医の診断書の内容が信用できないとして会社が無断欠勤を理由に労働者を解雇した事案で、裁判所は、診断書の内容を会社が否定しようとするのであれば、会社指定の医師による診察を受けるよう命令するのが当然の措置と言うべきであると判断して、会社の解雇を無効と判断しました(東京高裁平成25年10月10日判決)。
このことを踏まえると、主治医の診断書が疑わしいとしても、欠勤を理由とした解雇を行うには、診断書を否定するだけの医学的な根拠を会社が獲得する必要があります。
通常は、診断書が出たことを受けて、(3)の休職とするケースが多いです。
(5)休職期間満了後も遅刻、早退、欠勤を繰り返すケース
休職期間の満了時に復職した後も、体調不良を理由に欠勤や遅刻、早退を繰り返すケースもあります。このようなケースでは、十分な治療の機会を与えたにもかかわらず体調不良が治っておらず、働くことはできないと判断するケースもあり得ます。
(参考:東京地裁R5/12/14判決)
休職期間満了後9か月間に渡り、週に1回の頻度で通院のため欠勤又は早退をし、体調不良により欠勤し、また、配置転換後も配属後3か月間で、月4回程度通院早退し、欠勤5回、電車遅延遅刻4回、私事都合早退2回と言う状態の労働者に対して、上司が注意指導をしたところ、5日後に適応障害との診断書を提出して休業した事案。裁判所は2回目の休業を理由とした解雇を有効と判断した。
3 「パワーハラスメントを受けた」と述べて欠勤を繰り返す社員はどうすべきか
社員が、欠勤理由として、「上司からパワーハラスメントを受けた」、「長時間労働で疲弊した」等と述べるケースもあります。
(1)調査をした上で対応を決めること
パワーハラスメントや長時間労働を理由に欠勤を繰り返す場合には、まず、長時間労働があったのかを調査し、その調査結果を社員に報告することが大切になります。
特に、パワーハラスメントや長時間労働により体調不良となった場合には、その体調不良が労災となることもあります。
この場合、社員が欠勤を繰り返しても解雇できないという問題が生じかねません。
調査の結果、会社の対応に全く問題がないにもかかわらず、社員が欠勤を繰り返す場合には、「2」に即した対応になります。
(2)調査の負担を減らすための工夫
少人数の会社の場合、この調査は外部の弁護士に依頼することで、調査にかける時間と人の負担を最小限に抑えることができます。
(3)対応例
ハラスメントの被害を受けたことを理由として欠勤を続ける社員の対応の補助をした事案があります。この事案では、会社において、ハラスメント調査等を行っていました。
この事案では、当職らより、ハラスメント調査や事後対応に全く問題がない旨を整理した書面を労働者側に送付し、会社として、労働者の欠勤を労災による欠勤とは認めることができないこと等を説明しました。
このような対応の結果、欠勤を続けていた社員は、自ら退職し法的紛争に至ることを防ぐことができました。
また、ハラスメントを理由に体調不良になったとして、退職後の賃金の請求等をした事案について、当職らにおいて、調査を行い、ハラスメントの事実がなかったことを確認し、当該退職者に対して、書面で通知した事案もあります。
4 子の看護等を理由とした欠勤を繰り返す社員はどうすべきか
社員が、欠勤理由として「子どもの体調不良」「親の介護」等と述べるケースもあります。
このようなケースでは、育児介護休業法上の権利があるか否かを確認することになります。
例えば、小学校就学前の子が熱を出したというような場合には子の看護休暇(1年度5日)の対象となります。また、介護であれば、介護休暇(対象家族1名につき通算93日)の対象になります。
このようなケースでは、これらの法定の要件の裏付けとなる資料(例:病院の受診記録、医薬品のレシート等)を提出してもらうとともに、上記の育児介護休業法上の権利行使としての欠勤であることを申請してもらいます。
その上で、欠勤日数が育児介護休業法上の上限を超え、それが続くようなケースでは、契約内容の変更の提案等の対応を取ることが考えられます。
なお、このようなケースは、社員の落ち度という要素が少ないため、解雇には特に慎重になるべきケースです。
5 その他正当な理由がなく欠勤を繰り返す社員はどうすべきか
(1)届出が出ていても「無断欠勤」になるケースがある
ところで、従業員の側から、「欠勤の届出を出している以上は無断欠勤ではない。だから懲戒処分や指導は適切ではない」等の主張が出るケースがあります。
しかし、無断欠勤の「無断」とは通常、正当な理由のない欠勤を意味します。単に連絡をしているから無断ではない等という形式的な反論は認めるべきではありません。例えば、届出をしたが許可を得られなかったようなケースや虚偽の理由を届け出たようなケースでは、無断欠勤となります(参考:福岡高裁昭和55年4月15日判決)。
(2)欠勤日数等を記録する。
何日に欠勤をしたのか具体的な日付を記録しておきます。また、欠勤の理由や事前連絡の有無を記録します。
この記録により、まずは、社員の欠勤が繰り返されていることを確認します。
(3)欠勤に対する指導を行う
書面などで欠勤に対する指導を行います。
欠勤日数や欠勤の理由(欠勤に正当性がないこと)や欠勤により生じた支障を指摘します。
その上で、勤怠を改めることを指示します。
(例)
あなたは2025年7月の●●日、●●日、●●日、●●日に無断欠勤をしました。
当該欠勤は、就業規則に定める「正当な理由なく欠勤をしたとき」との懲戒事由に該当し、懲戒処分の対象になり得ます。
貴殿においては、所定の始業時刻には出勤し、欠勤をしないように本書でもって厳重に注意をいたします。
(4)欠勤に対する懲戒処分を行う
就業規則が周知されている場合には、欠勤に対する懲戒処分も行うことになります。
懲戒処分の量刑については、まずは譴責や訓戒などの軽い処分を行い、それでも改まらない場合には出勤停止等のやや重い処分を行い、それでも改まらない場合には解雇というイメージになります。
ただし、懲戒処分を行う場合には、次の点をチェックする必要があります。
・就業規則に懲戒事由と懲戒処分の種別に関する規定があるか
・就業規則が周知されているか
・懲戒事由に該当する欠勤があるか
(特に、懲戒規定に「しばしば欠勤を繰り返した場合」とか「欠勤を繰り返し、指導をしても欠勤を行った場合」等と書かれている場合には注意)
さらに、懲戒処分を行う前には、弁明の機会を付与することも必要です。欠勤を繰り返す社員を呼び出し、懲戒処分を行うことを想定している旨を伝えた上で、欠勤の理由や言い分を確認します。この手続きを経た上で、懲戒処分が必要であれば懲戒処分を行うことになります。
以下は、文書で弁明を求める際の書面の例です。
(例)
あなたは2025年7月の●●日、●●日、●●日、●●日に無断欠勤をし、当社が7月●●日に、厳重注意書を交付して指導をしたにもかかわらず、再び、同月●●日、●●日に欠勤をしました。
以上を踏まえ、当社は、貴殿に対して、「正当な理由なく欠勤をしたとき」との懲戒事由に該当することを理由とした懲戒処分を検討しております。
この件について、貴殿の弁明がありましたら、3営業日以内に、●●まで書面で提出してください。提出がない場合には、弁明の機会を放棄したものとして扱います。
次は懲戒処分を通知する文書の例です。
(例)
貴殿は2025年7月の●●日、●●日、●●日、●●日に無断欠勤をし、当社が7月●●日に、厳重注意書を交付して指導をしたにもかかわらず、再び、同月●●日、●●日に欠勤をした。当該行為は、「正当な理由なく欠勤をしたとき」との懲戒事由に該当するため、本書でもって訓戒の懲戒処分を通知する。
始末書は、8月●●日までに提出するように命じる。
(5)解雇等の対応
このような措置を繰り返しても、週1回以上の欠勤を繰り返す社員については、解雇することも考えられます。
ただし、解雇に先立って退職勧奨を経るなど、話し合いによる解決を目指すことが重要です。
(6)欠勤についてルーズな扱いをしてきた場合
欠勤を繰り返したケースであっても、会社が、これまで、欠勤を繰り返すことを咎めていないケースでは、解雇が無効となるリスクが高まります。
そのため、これまで勤怠に関してルーズな扱いをしてきた場合には、勤怠を適切に管理する旨を前者にアナウンスするなど、公平性を欠くと言われないようにするための対応が不可欠です。
(参考:大阪地決平成14年5月9日)
工場長が3年余りにわたって恒常的に遅刻を繰り返していた(月に1回程度しか始業時刻に間に合っていなかった)ことを理由に、会社が工場長である労働者を懲戒解雇した事案。
裁判所は、遅刻を繰り返している間に当該労働者を取締役に就任させるなど勤怠について問題視していなかったことを理由に、懲戒解雇を無効と判断し、会社から工場長へ月額38万円の支払いを命じた。
(参考:東京地決昭50・9・11)
約1年の間に欠勤27日、遅刻早退を99回繰り返した労働者に対する諭旨解雇処分を行った事案、裁判所は会社が解雇に至るまで日常の言動について懲戒処分をとって警告した事実が全くなかったこと等を理由に解雇を無効と判断した。
6 まとめ:安易な解雇はリスク大!専門家への相談を
欠勤を繰り返す社員への対応は、中小企業にとって頭の痛い問題です。しかし、安易な解雇は「不当解雇」と判断され、多額の金銭を支払うことになったり、企業の評判を損ねたりするリスクがあります。
まずは段階的な対応を試み、そのプロセスを正確に記録すること。そして何よりも、解雇を検討する際には、必ず労働問題に精通した弁護士に相談し、適切なアドバイスとサポートを受けるようにしてください。それが、貴社と従業員双方にとって、より良い解決策を見つけるための第一歩となります。
監修弁護士
稲田拓真 弁護士
【プロフィール】
岡山大学法学部卒業。2019年に弁護士登録(第一東京)。2024年より岡山弁護士会所属。主に企業側・経営者側の労働事件について代理人として、団体交渉事件、解雇訴訟、残業代請求労働審判事件、問題社員やミスマッチトラブルへの対応に取り組む。
経営者と従業員が元気な企業を増やしたいとの想いで日々の業務に取り組んでいる。