休職を繰り返す社員への対応6つ

【この記事のまとめ】

・休職を繰り返す社員に対応する就業規則を整えましょう

・休職を繰り返す社員については、医学的な意見をもとに対応しましょう

・対応が難しい場合には弁護士に相談しながら対応しましょう

 

特定の社員がたびたび休職を繰り返している状況は、大きな悩みではないでしょうか。

他の従業員への業務負担増加、生産性の低下、そして何より「このままでは会社が回らない」という不安は切実な問題かと思います。

 

しかし、「欠勤が多いから解雇しよう」と安易に考えてしまうと、後々大きなトラブルに発展する可能性があります。解雇は従業員の生活に直結する重大な問題であり、法律による厳しい規制があるため、正しい知識と手順を踏むことが不可欠です。

 

休職を繰り返す社員への対応のポイントを6点に整理して解説いたします。

 

1 就業規則を整備する

 休職を繰り返す社員がいる会社の場合、就業規則が繰り返しの休職を許す規定になっているケースがあります。

 

(1)休職期間の通算規定を設ける

まずは複数回の休職期間を通算する規定を設けることが考えられます。これにより、複数回休職をした場合には休職期間を短くすることになります。

規定例は次のとおりです。

 

規定例第●●条 (休職期間の通算)

1 第●●条の休職満了後、6か月以内に再び第●●条の休職事由に該当した場合、休職期間は、就業規則第●●条に定める休職期間から前回の休職期間を控除した期間とする。

弁護士のコメント

休職期間の通算規定を適用して退職扱いを認めた事案として、東京地裁令和6年12月10日(労経速2584-8)があります。この事案は、休職期間(有給と無休を合わせて4か月)開け3週間、労働者が会社の軽微な課題に対応できない、トイレにこもって叫び始める等の言動があったため、会社が産業医に確認をした上で、労働者が疾病のため就労できないと判断し、退職扱いにした事案です。休職期間の通算規定が役立った例の一つと言えます。

(2)普通解雇もありるう旨を注意的に記載する

 当職が聞き及んだ事案には、(1)の通算期間後に休職をするケースがありました。具体的には、3か月休職 → 6か月就労 →3か月休職 →6か月就労 を繰り返すケースです。このように規則の抜け穴をつくような従業員への対応のためにも、休職の繰り返しは、時に普通解雇になることを規定に明記します。

 

 

規定例

第●●条 (普通解雇について)

1 休職期間の通算の規定にもかかわらず、休職を繰り返した場合、その原因、回復可能性等を勘案し、普通解雇の規定を適用することがある。

弁護士のコメント

この規定がなければ解雇できないというわけではありません。しかし、「いつまでも休ませてもらえる」という甘い期待を抱かせないためにも、規定に加えておくことが重要です。

2 休職を繰り返す従業員から診断書が出た場合には主治医から聞き取りを行う

休職を繰り返す従業員から診断書が出た場合には、主治医から意見を確認することが必要です。

通算の休職期間にもよりますが、短期間で、適応障害やうつ病を発症しては治癒を繰り返すような場合には、実際には治っていないと思われるケースも多々あります。

このような場合には、例えば次のような事項を確認することになります。

 

・適応障害等の発症時期(初診の時期)

・治療の経過(前回の休職開始から治癒、再びの休職開始までの間の投薬内容、量の変化、愁訴の変化などを中心に)

・今回の適応障害等の発症原因

 

弁護士のコメント

休職を繰り返す従業員について、診断書の内容が嘘ではないかと思うケースもあります。

もっとも、裁判所は、診断書を否定するのであれば医学的な根拠を用意するように求めます。

そのため、医学的な根拠なしに「嘘をついていると思うから」といった理由で休職を認めないことはリスクになります。

休職させるか否かの判断のためにも、主治医より情報を取得することが必要となります。

(参考裁判例:東京地判平成17年2月18日)

この事案では休職期間が最大2年間あるにもかかわらず、7か月の休職後に再び休職をした従業員を解雇したことについて、裁判所は、治療により回復する可能性がなかったとは言えないと判断し、解雇を無効と判断しました。

3 産業医からも意見を取得する

産業医や法人の指定する医師からも意見を取得することになります。

主治医は従業員の体調については詳しいですが、会社での業務内容には疎いことが通例です。

このため、会社から会社の産業医等に対して、業務の内容等を伝えた上で、労働者と面談をしてもらいます

 

弁護士のコメント

上記東京地裁令和6年12月10日でも、退職扱いにする12日前に、産業医が労働者と面談し、勤務できる体調ではないとの判断を得た上で、退職扱いにしています。

また、すぐに退職扱いにしない場合でも、産業医に対して、会社の業務内容、労働時間数等を伝えて、どのような措置を講じれば再発を防止できるのかなどを確認することは考えられます。

4 回復可能性があるならば休職させる

確認の結果、回復の可能性があるという見解であれば、就業規則に基づいた休職を講じることが考えられます。

休職を繰り返したことから休職期間が短くなっている場合には、そのことを休職通知書で通知します。

 

(記載例)

貴殿は●●年●●月●●日より●●との診断書を提出して欠勤をしています。このため、当社は、貴殿を就業規則●●条●●号に基づき休職と致します。ただし、貴殿は、●●年●●月●●日~同年●●月●●日までの●か月間も同様の病気で休職していますので、休職期間は、次のとおり、最長で●か月となります。

 休職期間 ●●年●●月●●日~●●年●●月●●日 (ただし最長でも●●か月)

 

5 回復の見込みがない場合には解雇に踏み切る

休職期間が残っていないケースや傷病の内容等から回復の見込みがないケースでは、解雇に踏み切ることもあります(上記令和6年12月10日判決)。

 

(参考:東京地裁R5/12/14判決)

休職期間満了後9か月間に渡り、週に1回の頻度で通院のため欠勤又は早退をし、体調不良により欠勤し、また、配置転換後も配属後3か月間で、月4回程度通院早退し、欠勤5回、電車遅延遅刻4回、私事都合早退2回と言う状態の労働者に対して、上司が注意指導をしたところ、5日後に適応障害との診断書を提出して休業した事案。裁判所は2回目の休業を理由とした解雇を有効と判断した。

弁護士のコメント

回復の見込みがあるか否かは、主治医や産業医の意見を踏まえつつ、最終的には、裁判例の判断内容の見込みも踏まえた法的な判断となります。

 

このため、労働問題に強い弁護士に相談して対応を決めることが重要です。

6 弁護士に対応を依頼することを検討する

(1)弁護士ができること

経営者側の労働問題に詳しい弁護士であれば、休職を繰り返す従業員に対して、次のような対応が可能です。

・就業規則の整備

・診断書に対する主治医への質問事項の整理

・産業医等に対する確認事項の整理

・退職扱いにするか否かの判断

・退職扱いにする場合の話し合いの進め方の助言や退職通知書の作成

 

(2)弁護士に相談するタイミング

休職を繰り返す従業員への対応を相談するタイミングは、特定の従業員から2回目の休職の申し出があったタイミング(あるいはもっと早いタイミング)です。

このタイミングであれば、主治医からの意見聴取の助言などにより、トラブルにならない対応方法を助言できるためです。

 

弁護士のコメント

退職扱いにした後に争われてから相談にお越しいただいた場合、弁護士は、会社の代理人の立場で対応いたします。しかし、争いにならないのがベストである上、争いになる前であれば取れる手段はたくさんあります。そのため、早期のご相談をお勧めいたします。

7 まとめ

休職を繰り返す従業員について、本人の申告のまま休職を繰り返すだけでは解決しないケースも多々あります。

弁護士と相談しながら対応することでミスなく効果的な対応が可能となります。

 

 

最終更新:2025/08/17

監修弁護士

弁護士 稲田拓真

弁護士会:岡山弁護士会

2019年12月に弁護士登録(第一東京弁護士会)。

経営者側の労働問題に特化した法律事務所で4年以上勤務した経験という岡山では珍しい経歴を有する弁護士です。

労働問題に強い弁護士として労使紛争の迅速かつできる限り円満な解決を目指しております。

ぜひお気軽にお問い合わせください