【この記事のまとめ】
・就活ハラスメントの具体的内容を把握し予防する
・就業規則で就活ハラスメント対策を行う
・就活ハラスメントの申告へは適切に対応する
1 はじめに
就活ハラスメントとは、就職活動中やインターンシップの学生等に対するセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントのことを指します
(厚生労働省「明るい職場応援団」)
最近の法改正により就活生等に対するセクシャルハラスメントの禁止と企業対応の要請が法律上の義務となることが決まりました(詳細な施行日は交付の日から1年6月以内となっています。)
今回は、就活ハラスメント(セクハラ)の企業対応のポイントを確認します。
2 就活ハラスメント(セクハラ)の企業対応①:具体例とリスクの理解
(1)就活ハラスメントの具体例
就活ハラスメント(セクハラ)に該当しうる具体例は次のとおりです。企業対応を決める際に、まずは何がダメかを把握することからスタートとなります。
・面接で「恋人はいるのか」と質問されたり、オンライン面接時に「全身を見せて」と言われた。
・女子学生(男子学生)に対し、採用の見返りに不適切な関係を迫った。これを断ると「うちの会社には絶対入社させない」と不採用にした。
・インターンシップで食事やデートにしつこく誘われた。
(参考:厚生労働省「就活ハラスメント対策リーフレット」)
(2)就活ハラスメント(セクハラ)の法的リスク
就活ハラスメント(セクハラ)は、行為態様によっては、社会的相当性を書く言動として、損害賠償の対象になります。
この場合には、就活ハラスメント(セクハラ)を行った従業員のみならず、会社も法的責任を負うことになります。
このため、企業対応としては、就活ハラスメントはアフターファイブに行われることもあるという認識を持って対応にあたる必要があります。
3 就活ハラスメントの企業対応②:就業規則の整備
就活ハラスメントを禁止する場合の規定例は次のものが考えられます。
(1)ポイント1 :「求職者等」対象ではないことを明記する
就活ハラスメントの相手となるのは求職者に限られません。インターンシップを行っている人、OB、OG訪問中の学生なども被害者になりかねません。
そこで、規定では、被害者となりうる求職者等の定義を明確にしています。
(2)ポイント2:連絡先の交換等も禁止する
規定では、目的を問わず、個人的な連絡先のやり取り等を禁止しています。
これは、就活ハラスメントそのものではありませんがその原因になりかねない行為です。
これを規制することで、被害を防ぐとともに、採用担当者に注意を促しています。
(3)ポイント3:調査への協力者への不利益取扱の禁止を明記する。
改正法では調査に伴う不利益取扱を禁止しています。このことを就業規則上も明記し、社内調査を円滑に行い、再発防止を図ります。
4 就活ハラスメントの企業対応③:被害申告への対応
被害申告があった場合には、他のハラスメント案件と同じく、調査を行うことになります。
要点は次の3点です。
(1)被害者からの聞き取りが困難な場合にもできる限りの対応を講じる
就活ハラスメントの被害者は、労働者ではなく、指揮命令が及ばないケースがほとんどです。このため、呼び出して話を聞くことそのものができないケースは多いと考えます。
この場合、出ている被害申告を元に、行為者とされた人から聞き取りを行うなどして、調査を行うことになります。
被害者と連絡がつかないことを理由に調査を打ち切ると、後に就活ハラスメントの被害者(とされている側)から、企業の対応が安全配慮義務違反であるとされるリスクが生じるためです。
(2)求職者に調査結果の報告はする
次のような裁判例からすれば、他のハラスメントと同じく、就活ハラスメントの被害者に、企業から調査結果の報告をすることになります。
また、後述のとおり、ハラスメントの申告をしたから不採用になった等と言われないようにするためにも、一定の対応を講じた報告はすべきです。
(3)採否の問題は分けて考える
就活ハラスメントがあった場合、被害者の救済として、被害者を雇用することが必要になるのでしょうか。
使用者には採用の自由があり、誰を採用するかは使用者の専権です。
また、被害者の採用と救済は別の問題です。例えば就活ハラスメントの内容が不同意わいせつであっても、法的には、使用者責任に基づく賠償による救済で足りるはずです。
このため、就活ハラスメントがあったとしても、そのことから、被害者を採用する必要は生じないと考えます。
5 就活ハラスメント(セクハラ)の企業対応④:弁護士への相談
就活ハラスメント(セクハラ)は就職活動中の被害者との関係が問題となるため、企業対応も特殊な点があります。
労働問題に強い弁護士であれば、次のような対応が可能です。
①会社の実情に合わせた就活ハラスメントを予防するための規則づくり
②就活ハラスメントを予防するための講習会の実施
③就活ハラスメントの被害申告に対する事情聴取の補助、ハラスメント判定、求職者への対応の助言
④紛争発生時の代理人としての対応
就活ハラスメントで訴えられる前の段階から弁護士に相談することで、紛争を起こさない、円満な解決により、企業の評判を守るとともに、損害賠償リスクを防ぐことができます。
6 まとめ
就活ハラスメントは法改正前の今から対応が欠かせません。
労働問題に強い弁護士等に相談しながら各社対応にあたることをお勧めします。
最終更新:2025/08/29

監修弁護士
弁護士 稲田拓真
弁護士会:岡山弁護士会
2019年12月に弁護士登録(第一東京弁護士会)。
経営者側の労働問題に特化した法律事務所で4年以上勤務した経験という岡山では珍しい経歴を有する弁護士です。
労働問題に強い弁護士として労使紛争の迅速かつできる限り円満な解決を目指しております。
ぜひお気軽にお問い合わせください。