就活ハラスメント企業対応のポイント3点を弁護士が解説

【この記事のまとめ】

・就活ハラスメントの具体的内容を把握し予防する

・就業規則で就活ハラスメント対策を行う

・就活ハラスメントの申告へは適切に対応する

1 はじめに

就活ハラスメントとは、就職活動中やインターンシップの学生等に対するセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントのことを指します

(厚生労働省「明るい職場応援団」)

 

最近の法改正により就活生等に対するセクシャルハラスメントの禁止と企業対応の要請が法律上の義務となることが決まりました(詳細な施行日は交付の日から1年6月以内となっています。)

 

今回は、就活ハラスメント(セクハラ)の企業対応のポイントを確認します。

参考:男女雇用機会均等法の改正法の内容

第十三条 事業主は、求職者その他これに類する者として厚生労働省令で定めるもの(以下この項及び次項並びに次条において「求職者等」という。)によるその求職活動その他求職者等の職業の選択に資する活動(以下この項及び同条第一項において「求職活動等」という。)において行われる当該事業主が雇用する労働者による性的な言動により当該求職者等の求職活動等が阻害されることのないよう、当該求職者等からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2  事業主は、労働者が事業主による求職者等からの前項の相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

3. 厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする

弁護士のコメント 法改正が施行される前であっても就活ハラスメントへの対応は必須です。

就活ハラスメント(セクハラ)は、被害者の性的自由を侵害する態様であれば、不法行為や刑事罰の対象になります。

また、就活ハラスメント(セクハラ)の被害を訴える人について、調査などもしないまま不採用とすれば、不採用の原因が別にあったとしても、「あの会社は就活生にセクハラをする会社だ」という評判が拡大しかねません。場合によっては、調査をしなかったこと自体が損害賠償の理由にもなります。

このため、法改正の前であっても適切な対応が欠かせません。

2 就活ハラスメント(セクハラ)の企業対応①:具体例とリスクの理解

(1)就活ハラスメントの具体例

 就活ハラスメント(セクハラ)に該当しうる具体例は次のとおりです。企業対応を決める際に、まずは何がダメかを把握することからスタートとなります。

 

・面接で「恋人はいるのか」と質問されたり、オンライン面接時に「全身を見せて」と言われた。

・女子学生(男子学生)に対し、採用の見返りに不適切な関係を迫った。これを断ると「うちの会社には絶対入社させない」と不採用にした。

・インターンシップで食事やデートにしつこく誘われた。

(参考:厚生労働省「就活ハラスメント対策リーフレット」)

 

 

弁護士のコメント 特にOB、OG採用、リファラル採用の関連で、不適切な関係を迫ったりデートに誘ったりするケースが起きやすいとされます。 次に示すとおり、プライベートの問題であっても、会社が法的責任を負うことはあります。企業対応としては、就活ハラスメント予防のために、私的に連絡先を交換することを禁止する、活動中は求職者との私的な飲み会を開催してはならない等のルール設定が必要と考えます。

(2)就活ハラスメント(セクハラ)の法的リスク

就活ハラスメント(セクハラ)は、行為態様によっては、社会的相当性を書く言動として、損害賠償の対象になります。

この場合には、就活ハラスメント(セクハラ)を行った従業員のみならず、会社も法的責任を負うことになります。

このため、企業対応としては、就活ハラスメントはアフターファイブに行われることもあるという認識を持って対応にあたる必要があります。

 

(参考裁判例:東京地判平成15年6月6日)

会社主催の懇親会及び三次会までの飲食後、帰宅途中のタクシー内(事業所外において、深夜1時過ぎ発生)で、上司が部下の女性に対し突然力ずくでキスする等のセクハラをした事案。裁判所は、「本件セクハラ行為は、被告会社の業務に近接して、その延長において、被告甲野の被告会社における上司としての地位を利用して行われたものであり、被告会社の職務と密接な関連性があり、事業の執行につき行われた」と判断し、会社に対して慰謝料150万円を含む250万円弱の支払いを命じた。

弁護士のコメントアフターファイブも完全なプライベートではないことを念頭に、次からのとおり対策を立てることが重要となります。

3 就活ハラスメントの企業対応②:就業規則の整備

就活ハラスメントを禁止する場合の規定例は次のものが考えられます。

 

(規定例)

1 従業員は、求職者等(就職活動をしている者、インターンシップで受け入れている者その他これに類する者をいう。)に対して、各号その他の性的な言動により当該求職者等の求職活動等を阻害してはならない。

①採用面接時などに異性の交友関係を尋ねること

②求職者等に対し交際、デートの要求その他の性的な言動を行うこと

③求職者等とチャット、SNS等の個人的な連絡先を交換すること

2 本条のハラスメントに関する苦情相談窓口を設ける。相談窓口担当者は、相談等を受けるにあたり相談者その他関係者のプライバシーに配慮しなければならない。

3 従業員が求職者等からの前項の相談の対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、従業員に対して不利益な取扱いは行わない。

(1)ポイント1 :「求職者等」対象ではないことを明記する

就活ハラスメントの相手となるのは求職者に限られません。インターンシップを行っている人、OB、OG訪問中の学生なども被害者になりかねません。

そこで、規定では、被害者となりうる求職者等の定義を明確にしています。

 

(2)ポイント2:連絡先の交換等も禁止する

規定では、目的を問わず、個人的な連絡先のやり取り等を禁止しています。

これは、就活ハラスメントそのものではありませんがその原因になりかねない行為です。

これを規制することで、被害を防ぐとともに、採用担当者に注意を促しています。

 

(3)ポイント3:調査への協力者への不利益取扱の禁止を明記する。

改正法では調査に伴う不利益取扱を禁止しています。このことを就業規則上も明記し、社内調査を円滑に行い、再発防止を図ります。

 

4 就活ハラスメントの企業対応③:被害申告への対応

被害申告があった場合には、他のハラスメント案件と同じく、調査を行うことになります。

要点は次の3点です。

(1)被害者からの聞き取りが困難な場合にもできる限りの対応を講じる

就活ハラスメントの被害者は、労働者ではなく、指揮命令が及ばないケースがほとんどです。このため、呼び出して話を聞くことそのものができないケースは多いと考えます。

 

この場合、出ている被害申告を元に、行為者とされた人から聞き取りを行うなどして、調査を行うことになります。

 

被害者と連絡がつかないことを理由に調査を打ち切ると、後に就活ハラスメントの被害者(とされている側)から、企業の対応が安全配慮義務違反であるとされるリスクが生じるためです。

 

 

(参考裁判例:金沢地裁平成29年3月30日判決)

ハラスメント調査委員会が原告が面談に応じないことを理由に調査を休止した事案。裁判所は、面談以外の方法で調査を継続することを模索していないことを理由に、調査の休止は、「具体的な対応をすべき義務(原告の職場環境改善に向けた対応義務)を尽くしたということはできない」として、原告の会社に対する安全配慮義務違反を理由とした損害賠償請求を認容した。

(2)求職者に調査結果の報告はする

次のような裁判例からすれば、他のハラスメントと同じく、就活ハラスメントの被害者に、企業から調査結果の報告をすることになります。

また、後述のとおり、ハラスメントの申告をしたから不採用になった等と言われないようにするためにも、一定の対応を講じた報告はすべきです。

(参考裁判例:東京地裁令和4年4月7日判決)

使用者が調査の結論(審議不能)を出した後、労働者にその回答をするまでに8ヶ月余りが経過した事案。裁判所は、「被告は、労働契約上の安全配慮義務及び信義則上、原告の申告に対し本件部会が出した結論の内容如何を問わず、これを遅滞なく原告に告知する義務を負うものというべきであって、上記のような合理的理由のない回答遅延は債務不履行を構成すると認められる。」と判断し、慰謝料請求を認容した。

弁護士のコメント求職者によっては、SNSに調査結果の報告書を添付して拡散するケースも想定されます。どのような内容をどの程度報告するか、拡散リスクも踏まえた上で文言を整える必要があります。このような対応は、労働問題に強い弁護士が取り組んでいるところです。

(3)採否の問題は分けて考える

就活ハラスメントがあった場合、被害者の救済として、被害者を雇用することが必要になるのでしょうか。

 

使用者には採用の自由があり、誰を採用するかは使用者の専権です。

また、被害者の採用と救済は別の問題です。例えば就活ハラスメントの内容が不同意わいせつであっても、法的には、使用者責任に基づく賠償による救済で足りるはずです。

このため、就活ハラスメントがあったとしても、そのことから、被害者を採用する必要は生じないと考えます。

 

(参考裁判例:最判昭和48年12月12日)

「企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができる」と判断し、使用者には採用の自由があることを明示した。

弁護士のコメント

就活ハラスメントの被害者を不採用とする場合、被害者としては、ハラスメントを申告したから不採用になったと思ってしまいます。

このため、不採用を伝える際には、被害申告を踏まえて加害者の処分をしたことをあわせて伝えるなど、申告と採否は別の問題であることがわかるようにする必要があります。

5 就活ハラスメント(セクハラ)の企業対応④:弁護士への相談

就活ハラスメント(セクハラ)は就職活動中の被害者との関係が問題となるため、企業対応も特殊な点があります。

労働問題に強い弁護士であれば、次のような対応が可能です。

 

①会社の実情に合わせた就活ハラスメントを予防するための規則づくり

②就活ハラスメントを予防するための講習会の実施

③就活ハラスメントの被害申告に対する事情聴取の補助、ハラスメント判定、求職者への対応の助言

④紛争発生時の代理人としての対応

 

就活ハラスメントで訴えられる前の段階から弁護士に相談することで、紛争を起こさない、円満な解決により、企業の評判を守るとともに、損害賠償リスクを防ぐことができます。

 

6 まとめ

 就活ハラスメントは法改正前の今から対応が欠かせません。

労働問題に強い弁護士等に相談しながら各社対応にあたることをお勧めします。 

最終更新:2025/08/29

監修弁護士

弁護士 稲田拓真

弁護士会:岡山弁護士会

2019年12月に弁護士登録(第一東京弁護士会)。

経営者側の労働問題に特化した法律事務所で4年以上勤務した経験という岡山では珍しい経歴を有する弁護士です。

労働問題に強い弁護士として労使紛争の迅速かつできる限り円満な解決を目指しております。

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