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「素敵な経歴の人が来た」と思ったら、前職の職歴を隠していた、働いていない職歴を書いていた。
転職市場が盛んな中で、このようなトラブルも増えています。
今回は経歴詐称による内定取消をする際のポイントを弁護士が解説します。
(弁護士のコメント)
経歴詐称とは、採用選考時に提出された履歴書や職務経歴書の内容に虚偽があった場合を指します。
学歴や病歴の詐称等のケースもありますが、ここでは、特に近年問題の多い、職歴について解説します。
例えば、所属していない部署で長く働いており部署固有のスキルを有しているとアピールするケースです。
(裁判例)
職務に必要なプログラミング能力がないにもかかわらず,その能力があるかのような職歴を経歴書に記載し,採用面接時にも同趣旨の説明をしてソフトウェア開発会社に採用された事案において経歴詐称を理由とする懲戒解雇を有効としたもの(グラバス事件=東京地判平16.12.17労判889-52)があります。
実際には経験があるのに「未経験です」と偽るケースもあります。前職での経歴が芳しくないため、敢えて未経験者のふりをするパターンです。
(大阪地決昭和62年2月13日)。
・前職でタクシー運転者であったことを隠してタクシー会社に入社したという経歴詐称による解雇が問題となった事案。労働者は、前職での稼働状況は芳しいものではなかったことを隠そうとして経歴を詐称した。
・裁判所は「被申請人が面接時に申請人の経歴が判明していれば、その採否はもちろんのこと、仮に採用された場合でもその指導監督についても重要な差異が生じていたものであって、申請人の経歴詐称を理由とする懲戒解雇は相当」と判断しています。
前職隠しの一つですが、前職とトラブルを起こしたことを隠して転職するケースです。前職を解雇されたことを隠して転職を狙うパターンです。
(参考:東京地裁令和6年7月18日判決 アクセンチュア事件)
この事案では、労働者は、A社に4年、C社に2年、D社に1年、E社に9か月在籍していたという履歴書を出していました。
しかし、実際には、A社期間中にI社で就労、E社で就労していたはずの期間中にF社(5か月)とG社(1か月)で就労しかつ3か月の空白期間もありました。
労働者は、F社、G社との間で、雇用関係の解消をめぐる紛争を抱えており、その存在を隠そうとして、虚偽記載をしたものでした。
裁判所は、職歴という労働者の職務能力や適格性を判断するための重要な事項であり、紛争の事実は、被告にとって原告の採否の判断において従業員としての適格性に関わる重要な事項たり得るものであったこと、原告による経歴詐称の程度は、本件履歴書に記載された期間の半分近くを占めるものであり、履歴書や職務経歴書の提出意義を没却させるものであること等を踏まえ、職歴詐称を理由とした内定取り消しを有効としました。
詐称された職歴が業務に直接関係しない場合や、詐称による企業秩序への影響が小さい場合には、内定取り消しや解雇が無効と法的に判断されるリスクが出てきます。
このため、次から示すように具体的な事実を確認した上での対応が重要となります。
(参考:札幌高等裁判所平成18年5月11日判決:サン石油(視力障害者解雇)事件)
重機の運転者である労働者は、左目の視力が0.03(矯正不可)であるにもかかわらず、採用面接時に、健康状態の欄に「良好」と記載された履歴書(〈証拠略〉)を提出し、視力障害があることを積極的には告げなかった。会社は、労働者を採用後に上記の障害を認識し、労働者を解雇した事案。
裁判所は、被控訴人は,控訴人での採用面接に当たり,実技試験として,控訴人の作業現場の責任者の面前で重機を運転し,その技能に問題がないと判断されて雇用されたことや、大型特殊免許が更新されていること等から、業務に不適格とは言えないと判断し、解雇を無効とした。
その結果、会社は、労働者に対して、650万円以上の金額を支払い、労働者を復職させるように命じられた。
経歴詐称の具体的な内容を特定することが必要です。例えば、「A社での勤務歴あり」との記載があるが、実際にはA社に所属したことはなかったなどです。
詐称した経歴が中核となるものか否かが問題となります。
例えば、求人票で「必須条件」となっている職歴について偽っていたのであれば、重大性は高くなります。
他方で、求人票で「歓迎」などとなっている職歴の詐称にとどまる場合には、そのほかの事情等を踏まえた判断となります。
経歴詐称を行った期間が長い場合、それだけ悪質性が高いと言えます。
ただし、期間が短くとも採否に直結する重要な経歴を偽ったのであれば、やはり内定取り消しもありうると考えます。
裁判例:東京地裁令和6年7月18日判決
原告による経歴詐称の程度は、本件履歴書に記載された期間の半分近くを占めるものであった事案で、裁判所は「履歴書や職務経歴書の提出意義を没却させるものである。」として当該詐称を理由とする内定取り消しを有効と判断した。
例えば、履歴書に積極的に虚偽の記載をしたか否か、経歴が真実である旨宣言しているにもかかわらず虚偽の記載をしているかなど、どのように経歴を詐称したのか、その悪質性は重要な考慮要素となります。
裁判例:東京地裁令和6年7月18日判決
「応募及び採用過程において、提出した書類の記載内容はすべて正確であり、採用審査で誤判断を招くような虚偽の記載や隠れた事実はありません。」との誓約にチェックをした上で、経歴の半数以上が事実と異なる経歴の履歴書を提出し、面接でも取り繕うような発言を繰り返し、採用された事案で、裁判所は「故意による経歴詐称というべきものであり、詐称の態様としても、上記動機の下に、なるべく秘匿の事実が発覚しないようにしていたと推認できるものであって、不正義である」と判断し、最終的に内定取り消しを有効と判断した。
弁護士のコメント
経歴詐称をする人すなわち嘘をつく人はそれだけで採用に値しないと考える社長は多いです。私も人間的に信頼できない人を社内に置けないと考えるのは当然と考えます。
ただ、裁判所は「人間性」ではなく「契約を履行できるか」を見ます。
個々の事案で経歴詐称の内定取り消しのリスクと対応方法(どのように内定取り消しするかなど)は異なるため、冷静に上記のポイントを確認し対応を決めることが重要です。
事実関係を踏まえて、内定取り消しに値するような重要な経歴詐称があったと判断した場合であっても、すぐに内定取消や解雇するのではなく、まずは話し合いの機会を持つことが重要です。
これは、採用内定の取り消しは、争われるリスクがある上、内定取り消しが無効となった場合の損害額が極めて大きくなるためです。
まずは本人を呼び出して、証拠などから経歴詐称があったことを伝えて弁明の機会を与えます。
その際の話し方の例は次のとおりです。
貴方は履歴書でA社に3年間勤めて当社に来た経歴があると記載していますね。
ところが、当社が調査をしたところ、貴方は、A社に1年しか務めておらず、その後2年間は、B社やC社に所属していたとのことです。
このため、当社としては、実際の経歴と貴方が履歴書に記載した経歴は大きく異なると考えています。
この点について、なぜこのような記載になったのかなど、貴方のお考えを教えてください。
経歴詐称が重大な場合には、話し合いにより内定の取り消しを提案することも考えられます。
当社としては、A社での経歴、ひいては●●という技術がないとなれば、あなたを雇う前提がなくなります。また、真実と異なる履歴書で入社する人を信頼することも難しいです。貴方が無理して入ったとしても、●●という技術がなければ仕事に追いつくことは難しく、あなた自身が大変だと思います。
そのため、当社としては、あなたが当社の内定を辞退し、自ら次の自分に適した仕事を探す方が、あなた自身のためになると考えています。
重大な経歴詐称の場合、本人が内定を辞退しないのであれば、当方から内定取消を通知することになります。
この場合には法的リスクにも留意しつつ、本当に内定を取り消すか、入社させた上で判断するかの選択が必要になります。
弁護士名:稲田拓真 (岡山弁護士会)
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