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従業員10名程度の中小企業などで、特定の社員が「体調不良」を理由に、たびたび欠勤を繰り返している状況をなんとかしたいとお考えになっている経営者や労務担当者の方とお会いする機会が増えています。
今回は、「体調不良」を理由に欠勤を繰り返す社員への対応をまとめました。
欠勤を繰り返す社員であっても、いきなり解雇すれば、解雇が無効となるリスクが高いです。
特に「体調不良」と欠勤を繰り返すことに一応の理由をつけている以上、裁判所が、回復の機会も与えないまま解雇したとして、解雇を無効とし、多額の賠償を支払わせることもあり得ます。
(参考裁判例:最高裁平成24年04月27日)
被害妄想を理由に欠勤を40日続けた労働者を解雇した事案で、裁判所は、精神科医による健康診断を実施するなどした上で、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、諭旨退職としたことは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難いと判断し、解雇を無効と判断しました。
一般的に、正当な理由なく欠勤日数が2週間を超えるケースでは、解雇も相当とされることが多いです。
ただし、「体調不良」を主張しているケースでは、2週間になる前に、本当に病気なのかを確認することが必要です。
(労働基準法39条1項)
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
少なくとも出勤日数が所定労働日の8割を切っている場合、勤怠について問題があると言わざるを得ません。
つまり、週1回以上欠勤しているか否かという点です。
これは、出勤率が8割を切るほど欠勤を繰り返す状況では、有給休暇も付与されないほど勤怠が良好とは言えないためです。
このような場合には、解雇等も視野に入れつつ対応を決めることになります。
(労働基準法39条1項)
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
遅刻や早退などもある場合には、その時間や回数も記録した上で、遅刻、早退、欠勤のない就労日が何日あるかを確認します。
例えば、事故のない出勤が7割を切るようであれば、場合によっては解雇を視野に入れた対応も可能になります。
(参考:横浜地判昭和57年2月25日)
6ヶ月間の遅刻回数が24日、事前の届出のない欠勤回数が14日、その間に完全な就労をした日数が全体の69%に過ぎない事案で、裁判所は、「正当な理由がなく遅刻、早退または欠勤が重なつたとき。」との懲戒解雇事由があつたものと一応認められるとした上で、勤怠不良をあらためるようにとの警告が課長2名によつて繰返しなされたこと等を踏まえ、本件解雇が解雇権を濫用してなされたとの主張には理由がないと判断した。
よく相談を受けるのは、電話で当日に「今日だるいので休みます」とだけ連絡して、そのまま欠勤することを繰り返す社員の話です。
特に、プライバシー等に配慮して診断書の提出等を求めない職場では、このようないい加減な方法での欠勤が横行しがちです。
そこで、まずは診断書の提出を求めることが考えられます。
〔話し方の例〕
あなたは、2025年7月1日から7月末までの22営業日のうち6営業日に渡り、欠勤をしています。これらの欠勤について、体調不良という主張が出ていますが、貴殿より診断書が出ていません。
貴殿が就労できるのか確認をする必要がございますので、貴殿の主治医に対して、診断書(通院開始時期、今後の通院頻度の目安、通院期間の目安等を明記したもの)の作成を依頼するとともに、当社までご提供いただきたく存じます。本指示から2週間以内に該当の書面をご提供下さい。
(弁護士のコメント)
病院の受診を命じる業務命令について、「使用者は、就業規則等に定めがなくとも指定医の受診を指示することができ、労働者はそれに応じる義務がある」と判断した事案があります(東京高判昭61・11・13労判487号66頁)。このため、欠勤状況等を踏まえた合理的な受診命令であれば、就業規則の根拠がなくとも命じることは可能です。
ただし、無用なトラブルを避けるために、後記のような受診命令を定めた規定を就業規則に規定しておくことをお勧めします。
「プライバシーである」等と理由をつけて診断書を出さずに、体調不良を理由として、欠勤を繰り返す社員もいます。
このような社員について、「体調不良だから仕方ない」と諦めてはいけません。
診断書を出さない場合には、体調不良という理由は本当の理由ではないと判断し、欠勤に対して懲戒処分等を行うケースもあります。
なお、このような事態に備え、就業規則の中に、次のように診断書の提出を命じることができる規定を入れておくことが望ましいです。
(規定例)
「体調不良を理由とする欠勤のあった場合その他会社が社員の体調を確認する必要がある場合、会社は、社員に対して診断書の取得と提出を求めることができる。」
体調不良による欠勤が連続するような場合には、診断書に基づき、休職を発令することになります。
これは、本当に体調不良による欠勤の場合、回復の機会を与えずに解雇した場合には、解雇が無効となるリスクがあるためです(前掲最高裁平成24年04月27日)
当職が対応した事案でも、体調不良を理由とした欠勤や問題行動を繰り返す社員が、自分は精神的な疾患があるとの診断書を出したが、その診断書からは病気と欠勤等との関係が読みとれないケースもありました。
このようなケースでは、主治医から事情を聴取するなどして、問題行動(欠勤)が本当に体調不良によるものかを確認する必要があります。
確認を経てもなお、体調不良と欠勤との医学的な関係が不明な場合には、後述のように懲戒処分を重ねることになります。
(参考裁判例:東京地判令和元年8月1日)
この事案で使用者は早退、職場離脱、奇異な言動を繰り返す従業員(精神疾患あり)に対し、けん責、出勤停止、降格の懲戒処分をし、その後も同労働者に改善が見られないため、労働者を解雇した事案です。解雇にあたり使用者は、労働者に対して休職を与えていませんでした。
裁判所は「原告から休職の申出がされたことは窺われない」ことや、休職事由に該当する連続欠勤がないこと、「精神科医の受診を命じた上で、診察した医師に対して病状等を照会したものの、原告の精神疾患の有無や内容、程度及び原告の問題行動に与えた影響は明らかにならなかった」ことから、休職を命じるべき事情はないとして、休職を経ないまま懲戒処分を行った上で実施した解雇は有効な解雇であると判断しました。
(弁護士のコメント)
当職が対応した事案でも、労働者は、当初自分の問題行動を病気のせいにしていました。しかし、会社が主治医から話を聞いたところ主治医は、問題行動と病気との間に関係性はない旨の回答をしました。その回答を基に、労働者と面談し、その結果、労働者との間で退職合意を結ぶことができました。
経歴詐称が重大な場合には、話し合いにより内定の取り消しを提案することも考えられます。
当社としては、A社での経歴、ひいては●●という技術がないとなれば、あなたを雇う前提がなくなります。また、真実と異なる履歴書で入社する人を信頼することも難しいです。貴方が無理して入ったとしても、●●という技術がなければ仕事に追いつくことは難しく、あなた自身が大変だと思います。
そのため、当社としては、あなたが当社の内定を辞退し、自ら次の自分に適した仕事を探す方が、あなた自身のためになると考えています。
試用期間の間にうつ病等が再発して体調不良による欠勤が続くケースもあります。
この場合には、試用期間満了時まで欠勤を認めて、試用期間満了時に本採用を拒否することがリスクが低い方法となります。
ただし、試用期間の段階で欠勤が続く時点で適格性を欠くとして、その時点で本採用を拒否するケースもあります。
弁護士のコメント
試用期間中の従業員との契約解消は、本採用拒否であり、法的には「採用決定後の調査の結果,または,試用中の勤務状態等により,当初知ることができず,また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において,その者を引き続き雇用しておくのが適当でない」ケースで認められます(最判昭和48年12月12日)。
私も試用期間中3日連続で休んだ時点で本採用を拒否したいとの相談を受けたことはありますが、試用期間中に数日欠勤した程度であれば、法的には、引き続き雇用しておくのが適当でないとまでは言えないケースもあります。このようなケースでは、少なくとも1か月は様子を確認するなどの工夫も必要です。
週1回程度の欠勤を繰り返すケースでは、いきなり解雇に踏み切るのではなく、まずは、厳重注意等を行うことが必要です。これは、欠勤についてルーズに扱っていた場合に解雇に踏み切れば、解雇が無効になってしまうためです。
指導書の記載例は後述のとおりです
(参考:大阪地決平成14年5月9日)
工場長が3年余りにわたって恒常的に遅刻を繰り返していた(月に1回程度しか始業時刻に間に合っていなかった)ことを理由に、会社が工場長である労働者を懲戒解雇した事案。
裁判所は、遅刻を繰り返している間に当該労働者を取締役に就任させるなど勤怠について問題視していなかったことを理由に、懲戒解雇を無効と判断し、会社から工場長へ月額38万円の支払いを命じた。
(参考:東京地決昭50・9・11)
約1年の間に欠勤27日、遅刻早退を99回繰り返した労働者に対する諭旨解雇処分を行った事案、裁判所は会社が解雇に至るまで日常の言動について懲戒処分をとって警告した事実が全くなかったこと等を理由に解雇を無効と判断した。
あなたは2025年7月の●●日、●●日、●●日、●●日に欠勤をしました。
当該欠勤は、就業規則に定める「正当な理由なく欠勤をしたとき」との懲戒事由に該当し、懲戒処分の対象になり得ます。
なお、貴殿より、いずれも「体調不良による欠勤である」と伺っております。
しかし、いずれの欠勤に際しても、当社の求めにかかわらず貴殿は診断書を提出していません。このため、当社として体調不良を前提とした扱いはできません。
貴殿においては、所定の始業時刻には出勤し、欠勤をしないように本書でもって厳重に注意をいたします。
従業員から「欠勤を繰り返している理由は体調不良である。会社として、体調不良でも休むなというのか」等と反論が出るケースがあります。
このようなケースでは「そもそも体調を崩して本来来るべき日に働けていないことが問題である。体調を整えてほしい」等とお伝えすることになります。
また、「欠勤を繰り返してしまうのであれば、お医者さんからどのような日数であれば働けるのかなど診断書を取得してほしい。その内容を踏まえて会社として対応を検討する」等と返すことになります。
(コメント)
労働契約上、1日8時間週5日働くという契約であれば、労働者は1日8時間週5日働く必要があります。欠勤を繰り返すということは、この当たり前のルールを軽視しているということに他なりません。安全配慮義務は尽くすとしても、体調不良を免罪符にすることはできないという姿勢を会社として示すことになります。
欠勤を繰り返す場合には、懲戒処分を行うことが考えられます。
それでも改善がない場合には、解雇なども視野に入れた対応をとることになります。
(参考裁判例:東京地判令和元年8月1日)
労働者が無断早退等を繰り返したことを理由に、会社が労働者を解雇した事案で、裁判所は、上司から日常的に指導を行っていたほか、勤務改善指導書を交付するなどして指導し、3度にわたり懲戒処分を行って改善を促したものの、原告は、これらの指導等を受けた後も、無断で早退や売場を離れるなどの不適切な言動を繰り返していたのであるから、業務遂行能力や勤務状況について、向上、改善の見込みが認め難いとして解雇を有効と判断した。
弁護士名:稲田拓真 (岡山弁護士会)
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