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「即戦力として期待して中途採用した社員が、期待された能力を発揮してくれない...」
従業員数名の中小企業において、このような問題は経営に直結する大きな悩みです。特に高年収で採用した即戦力社員の場合、その能力不足が深刻なダメージに繋がる可能性があります。
能力不足を理由に解雇するには、労働契約法や過去の裁判例に基づいた厳格な手続きが必要です。不適切な解雇は、解雇無効を争う訴訟に発展し、多額の金銭支払い(賃金や慰謝料など)を命じられるリスクがあります。
本記事では、能力不足を理由とする解雇、特に即戦力の中途採用者に関する裁判所の判断基準を、具体的なチェックポイントとともにQA形式で解説します。
Q1. 能力不足を理由とする解雇が認められるための基本的な考え方を教えてください。
Q2. 即戦力の中途採用者でも、能力不足を理由にすぐ解雇できますか?
Q3. 営業社員が結果を出せない場合、解雇の有効性はどのように判断されますか?
Q4. 解雇を有効とするために、会社はどのような「指導」や「改善機会」を与える必要がありますか?
Q5. 中小企業や職種限定採用の場合、「配置転換」を検討する必要はありますか?
Q6. 能力不足解雇を有効に進めるための「証拠」と「手続き」は何ですか?
能力不足を理由とする解雇(または試用期間満了に伴う本採用拒否)が法的に有効と認められるためには、以下の3つのポイントについて客観的・総合的に見定める必要があります。
特に、使用者の主観的な評価(人事考課)は、あくまで判断の際の一資料にとどまる点に注意が必要です。
労働者に求められる職務能力の内容を検討する際の着眼点として、以下の客観的な書面をチェックし、特定の能力が求められていたことを明確にする必要があります。
中途採用者であっても、能力不足を理由に採用後すぐに解雇することは非常に難しく、解雇は無効となるリスクが高いです。
たとえ高年収(年収1000万円)の即戦力として期待された従業員であっても、指導が不十分なケースでは解雇が無効となるという厳しい判断が示されています。
この裁判例は、高年収の即戦力であっても、業務日報を活用した都度の営業の手法等に関する指導を行っていれば、結論が変わり得た可能性を示唆しています。
能力不足解雇が有効となるためには、具体的な裏付け(証拠)と継続的な指導が必須です。
営業社員の場合、単に営業成績が不良であるというだけでは解雇は認められず、「指導の有無」や「判断期間の妥当性」が決定的な要素となります。
試用期間中の即戦力採用であっても、極めて短期間での解雇は無効と判断されています。
前掲令和7年判決もその一例です。この他次のような例もあります。
営業成績が著しく悪くても、会社側が具体的な指導や警告を尽くしているかが重要視されます。
営業社員の能力不足を裏付けるための証拠としては、以下のようなものが挙げられます。
解雇が有効と認められるためには、会社は能力不足を改善させるための具体的な指導と、その指導に対する労働者の反応や改善への努力を示す必要があります。
東京地判 平成14年10月22日判決では、中途採用者について、雇用時に予定された能力を全く有さず、これを改善しようともしない場合には解雇事由に該当すると判断し、労働者の能力不足と上司への反抗的態度を理由に解雇を有効としました。
小規模出版社(従業員約15名)の営業職の試用期間満了に伴う解雇が有効とされた裁判例(さいたま地裁 令和4年4月19日判決)では、以下のような具体的な指導と、それにもかかわらず改善しない事実が認められています。
最終的な裁判所の判断: 原告の勤務態度、業務成績、勤怠等を踏まえ、「小規模出版社である被告の営業職としての適性を有するとは認め難い」とし、本採用拒否(解雇)を有効と判断しました。
解雇が有効となるための要件の一つに、解雇回避措置(配置転換など)の検討がありますが、使用者に当該解雇回避措置を期待することが客観的にみて困難な場合には、例外が認められます(期待可能性の原則)。
小規模企業で配転の余地がない場合は、異職種配転を考慮する必要がないとの見解もあります。また、次のように報酬体系等を踏まえて配点の余地を否定した例もあります。
職種を特定して雇用したために他の職種で活用する余地がない場合は、異職種配転をしてまで雇用を維持する義務はないとされることが多いです。
ただし、配置転換が困難な場合でも、雇用維持に向けた以下の努力を検討し、その記録を残すことで、解雇が無効となるリスクを大幅に下げることができます。
能力不足を理由とする解雇(本採用拒否)の有効性を確保するためには、裁判所に「やむを得ない事由」があったと判断させるための、揺るぎない証拠と論理的な手続きが不可欠です。
労働契約上、当該労働者に求められている能力を客観的に特定することが重要です。
証拠の例: 求人票、履歴書、面接時のメモ、職務記述書など
具体的な能力不足の事実と、それが労働契約の継続を期待できないほど重大であることを証明します。
会社側が十分な指導・教育を行い、労働者に改善の機会を与えたこと、そして労働者側の反応を記録します。
能力不足が業務に及ぼす支障の重大性、および解雇回避措置を検討した経緯を明確にします。
能力不足解雇の訴訟における会社の最終的な主張は、「雇用し続けた場合、顧客からの信頼を喪失し、多大な損害が生ずるのは時間の問題であった」という経営上の必然性と、「指導を繰り返したが、労働者は能力が欠落し、改善の見込みすらなかった」という指導の尽くし、そして「異動提案も拒否した」という解雇回避措置の努力をセットで立証することになります。
弁護士名:稲田拓真 (岡山弁護士会)
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