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労災で適応障害などの精神疾患にかかってしまい療養が長期化している従業員がいるというご相談をいただいたことがあります。

労災の療養中の解雇は、労働基準法19条により、原則としてできません。

しかし、5年を超えるような長期間もの療養を認める必要はあるのでしょうか。今回は、療養が長引いている労働者への対応を検討します。

 

設例

当社は従業員10名程度の保険代理店で、私は最近、事業を譲り受けて社長になりました。

当社の従業員であるXは8年前から適応障害の療養のために休業しています。当時、会社では100時間を超える長時間労働があって、Xの病気は労災であると認定が出ています。

しかし、いくら労災とは言え、8年間の療養は長すぎると考えます。社会保険料の負担などもあります。

会社としてはやめてもらいたいと思っていますが、何か説得の方法はありますか。

 

裁判所の考え方

解雇を認めた裁判例

設例の事案で参考になるのが、東京地裁令和7年7月24日(労働経済判例速報2595-3)です。

この裁判例では、設例のように8年間(2015年〜2022年)適応障害のために休業していた従業員の解雇を有効と判断しました。

裁判所は、療養期間の目安とされている期間(通常6か月〜2年を超えない等)を大幅に超過しており、症状固定の医学的判断を求めることが重要とされている時期も大きく経過しているが、症状固定について具体的に検討されたとの事情もないこと等からすれば、8年前の適応障害と解雇当時の休業との間には「相当因果関係があると認めにはたりず・・・療養のために休業する状態にあったということはできない」と判断し、解雇を有効としました。

 

※裁判所は療養期間の目安について次の資料を参考にしています。

基発 0901 第2号 令和5年9月1日 「心理的負荷による精神障害の認定基準について」

https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001140929.pdf

 

解雇が無効となる裁判例

他方で、長期間に渡る休業について、労災の療養のための休業であると判断した事案も多数あります。次のように判断された場合には、労働基準法19条により解雇ができません。

  1. 「うつ病」(気分障害)による9年間を超える休業について、過重労働との相当因果関係を認めた例(最高裁平成26年3月24日判決.東芝(うつ病・解雇)事件)
  2. 不安障害、適応障害による4年間の休業について、パワハラとの因果関係を認めた例(長崎地裁平成30年12月07日判決.プランネットシーアール事件)
  3. 「うつ病」による5年6か月の休業について、パワハラとの相当因果関係を認めた例(大阪地裁平成30年05月29日判決。大阪高裁平成31年01月31日判決.松原興産事件)
 

設例の事案の対応策

労災による休業の場合、8年等の長期間に渡ったとしても、解雇できるとは限りません。このため、極力解雇を避けて対応を取ることになります。

療養状況を確認する

医師の診断書が出ていない場合には、まず医師の診断書等を出してもらい、現在の療養状況を確認します。次のような項目について、主治医に質問します。

  • 治療経過(症状の改善の有無や程度)
  • 投薬量の変化
  • 症状が改善する見通し

※精神科の産業医や知り合いの精神科医などがいる場合には、その医師に療養の経過などを踏まえた意見をもらいます。

 

※「寛解」との診断がない場合も含め、療養を継続して十分な治療を行ってもなお症状に改善の見込みがないと判断され、症状が固定しているときには、治ゆ(症状固定)の状態にあると考えられるが、その判断は、医学意見を踏まえ慎重かつ適切に行う必要がある。との指摘があります(上記認定基準)。

退職に向けた話し合いをする

確認した療養状況などを踏まえて治ゆ(症状固定)と評価しうる状況であれば、退職に向けた話し合いを行います。

その場合、労災保険の休業補償給付は退職後も支給されること(労働災害保障保険法第12条の5第1項)を説明し生活の保障があることや、場合によっては特別退職金を提案することで、話し合いによる解決を図ることになります。

 

※特別退職金を支払う場合には、労災保険の給付により補填されない損害について補填する趣旨である旨等を記載することになります。このような記載がないと、労災保険の給付と特別退職金が労災保険の給付に代わる支払いであると労働基準監督署等に判断され、労災給付が止まるリスクが出るためです。

→具体的な条項は労働問題に強い弁護士にご依頼ください。

 

法的リスクを踏まえて解雇する

退職合意に応じない場合には、上記裁判例を踏まえて、解雇に踏み切ることも考えられます。

ただし、長期間の療養であっても労災の場合には、解雇が無効となるリスクはあります。

もし解雇が争われた場合には、労働問題に強い弁護士に依頼することになります。この場合、退職和解の試みを含むリスクをコントロールしながら解決を目指すことになります。

 

最後に:岡山の労働問題に強い弁護士の紹介

「従業員から訴えられた」「問題社員がいて会社だけでは手に負えない」といったケースでお悩みではございませんか。

経営者側の労働問題は弁護士でも得意、不得意が分かれる領域で、対応によっては多額の賠償を要することも珍しくありません。

他方で、弁護士によっては紛争にならない円満解決に向けたサポートができることもあります。

弁護士稲田拓真は、6年以上問題社員の対応などの労働問題に取り組み続けた、労働問題に強い弁護士です。

大学時代を過ごした岡山の中小企業に向けたサポートに力を入れています。

御社、あるいは社会保険労務士・税理士の先生方等では手に負えなくなった困難な労働問題は、是非ご相談ください。解決策を見つけていきます。

 

執筆者の紹介

弁護士名:稲田拓真

岡山市に拠点を持つ「困った従業員・問題社員への対応」などの労働問題に強い弁護士。東京で4年以上、労働問題に対応し続けた経験を持つ。この経験や最新判例、人間心理の知識を生かし、迅速に解決策の提案と実行をサポート。「早々にご回答ありがとうございます」等の言葉をいただきながら、日々岡山の社長のために奔走している。

 

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