町工場などの小さな事業所で新たに「職人」の候補者を雇ったらミスが多くて能力不足であったというケースでお悩みではありませんか。
この記事では、労働問題に強い弁護士が、最新判例を題材に、能力不足の技術者への対応を解説します。
能力不足の技術者に辞めてもらうための4つのポイント
- 参考となる最新裁判例を知る
- 求められる業務の水準を確認する
- 能力不足の証拠を確保する
- 記録を残しながら指導を行う
参考となる裁判例を知る
このような事案で参考になるのは、東京地裁令和3年10月20日判決労働判例1313-87事件です。
この事案は、従業員44人の工場で、溶接の技術職として雇った従業員を会社が試用期間中に解雇した事案です。
裁判所は、解雇を有効と判断しました。そのポイントは次の3点です
求人票や面接内容の確認
裁判所は求人票、履歴書の記載などから原告には商品化に耐え得るだけのTIG溶接の技術力等があることが前提となって採用されたと判断しました。
能力不足の状況
裁判所は、原告が専門学校等を卒業したばかりの者が製作目標とするような作業さえできず、製作した製品のほとんど全てが商品にならなかったこと、その点数が1か月半で数百点に登っていたことを確認しました。
会社による指導の内容
裁判所は、B課長から溶接不良の箇所をマーカーで示しながら,溶接が過剰な部分があり,ムラが生じていることや,溶接すべき部分がずれていることなど,溶接不良の原因について具体的な指摘を受けていたにもかかわらず,被告代表者との面談において,溶接のポイントがずれているという指摘がいかなる趣旨であるか理解できないなどと述べ,その後も溶接不良が改善されなかったことを指摘しました。
結論
以上を踏まえて、裁判所は、原告が期待された技術水準に達する見込みがないと判断したことにも合理的な理由があるとして、解雇を有効としました。
求められる業務の水準を確認する
本件は即戦力と裁判所が認定した事案です。
裁判例の中には、会社が「即戦力」として雇ったはずだと主張をしても、求人票の記載や採用面接の内容から即戦力ではないと判断した事案もあります。
このような事案では、解雇が無効となりやすくなります(参考:東京地裁令和7年6月13日判決(労働判例1338ー55))。
そのため、次のような資料を参考に、即戦力か否かを確認します。
- 求人票(特に「必須条件」の記載内容)
- 履歴書・職務経歴書(どのような経歴について記載をしているか)
- 面接時のメモ(どのような質問をしたか、質問に対してどのような回答をしたか)
- 雇用契約書
能力不足の証拠を確保する
上記の裁判例では能力不足の根拠として数百点の欠陥品の存在がありました。
このようなミスの記録などを残すことで、能力不足の裏付けになります。
実際に私が担当した事案(従業員10人未満の町工場)でも、10枚を超える作業の修正報告書が能力不足の重要な証拠になりました。この事案では、能力不足の根拠を示すことで、1か月半の短期間での退職合意を実現しました。
他にも、事務職員の退職問題について、従業員の書き損じ記録などを証拠として確保しました。この書き損じ記録等を使った結果、紛争になることなく合意退職が実現しました。
このように能力不足の証拠(どれだけミスが多いか)を示すことで、能力不足の技術者を退職させやすくなります。
労働問題に強い弁護士に依頼すれば、能力不足の証拠を集めることで、裁判になった場合にも有利に戦える材料を集めます。
会社による指導を行う
裁判例でも面談などによる指導を経ても改善の見込みがないことを理由に、解雇が有効となっています。
実際に私が担当した事案(従業員10人未満の町工場)でも、10枚を超える作業の修正報告書が証拠となりました。これは作業報告書を能力不足の技術者自身に作らせたこと、報告書の中で「今後の対策」「原因」などにも言及させていたこと等が指導となったものです。
このように小さな町工場でも、工夫により、技術者の能力不足の証拠を確保することができます。また、その負担も重たくなりすぎない工夫ができます。
労働問題に強い弁護士に依頼すれば、指導書の代筆や面談の台本作りなどを行います。会社が一から考える負担はありません。
それでも問題社員にお困りなら
ここまでの対策を取っても解決しないケースでは、岡山の労働問題に強い弁護士にご相談ください。
弁護士が「次の一手は何をすべきか」を提案し、書面づくりなどを代行し、面談の立ち合いなども行います。
労働問題に6年以上取り組んでいる弁護士が直接サポートしますので、素早い回答と的確な助言で「問題社員にどう対応しようか」という悩みを解消できます。
「解雇を争った社員との紛争を1か月半で解決」「経営者に反発する社員の退職に成功」など、岡山でも多くの事案を解決しています。
地元岡山を起点に「経営者の抱える労働問題を解決する」ために尽力いたします。
監修弁護士
弁護士名:稲田拓真
2018年3月岡山大学法学部卒業。2019年12月弁護士登録。2024年1月岡山弁護士会に登録。経営者側の労働問題を得意分野とする。