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店長を務めていた従業員からの残業代請求にお悩みではありませんか。

この記事では、経営者側の弁護士の立場から「店長は管理監督者である」と反論する場合のポイントを解説します。

 

店長が管理監督者に該当することを主張する際のポイント

店長が管理監督者に該当するため残業代の支払いは不要であると反論するケースは少なくありません。

このようなケースは雇用契約書に「管理監督者」とか「残業代無し」と書いていたとしても、そのことから残業代が不要になるわけではありません。法的に「管理監督者」と言えなければ、このような合意は労働基準法よりも不利な合意であり無効となり、残業代請求が可能となるためです(労働基準法13条、37条)。

そのため、次のような要素について、具体的に対応する必要があります。

  • 店長の採用権限を具体化する
  • 店長と他の従業員との業務内容の違いを明らかにする
  • 店長と他の従業員の待遇の違いを明らかにする
 

店長の採用権限を具体化する

管理監督者に該当するか否かの重要な要素が、当該従業員(店長)の職務上の権限です。

 

シフトを作成する権限があるにとどまるような場合には、管理監督者が否定される傾向があります。

例えば、シフト作成を行う管理者の保育士が管理監督者に該当することを否定し、800万円を超える残業代等の支払いを命じた裁判例があります(京都地裁令和4年5月11日判決)

実際に、当職が知っている事案でも、シフト作成の権限を有していた管理職(ケアマネージャー)について管理監督者に当たらないとして700万円超の残業代の支払いを命じたケースがあります。

 

他方で、比較的最近の裁判例である岐阜地裁令和6年8月8日判決(労働経済判例速報2565-27)は、中古自動車販売店の店長が管理監督者に該当するか問題となりました。

この店長は、次のような権限を有していました。

  • シフトを管理する権限
  • 店舗の従業員の採用を事実上決定する権限(店長の判断がそのまま反映されていた)
  • アルバイトを正社員に登用するか前提となる店長の推薦を行う権限

裁判所は、年収等も踏まえて、この店長が管理監督者であると判断し、残業代請求を退けました。

 

店長と他の従業員との業務内容の違いを明らかにする

店長がアルバイトや通常の従業員と同様の職務を長時間行っているケースでは、店長は管理監督者にならないことが多いです。

 

著名な裁判例では、アルバイトの採用権限と評価権限を有していた店長について、シフト・マネージャーとしての営業業務(店舗での顧客対応等)も行っており、このために相当の長時間労働となっていたこと等を理由に、管理監督者に該当しないと判断し、500万円を超える残業代の支払いを命じました(東京地裁平成20年1月28日判決.日本マクドナルド事件)。

 

この裁判例については、「店長の権限と役割からは、店長の業務にのみに従事していたのであれば十分に管理監督者と認められえたが、シフト・マネージャーの業務が加わったことによって、労働時間規制を適用除外するには不適切となったと思われる」との指摘も出ています。このことからも、職務の内容が重要であることはわかります(菅野他「労働法第13版」2024.弘文堂.417頁)。

 

他方で、岐阜地裁令和6年8月8日判決の事案は、中古自動車の買取を行う店舗の店長であった原告に、担当者を決める権限、買取価格を決める権限等もありました。裁判所は、後記の通り待遇等も勘案し、次のとおり判断して、管理監督者に該当すると述べました。

 

「買取店の店長は、自身が店長を務める買取店という一店舗単位でみれば、当該店舗の実質的な経営者であると評価することができ、利益を生み出す主体である買取店の、被告における重要性に鑑みれば、買取店の店長は、被告の経営者と一体的な立場にあるとも評価することができる」

 

このように店長と他の従業員との業務を比較することで、店長が店という単位では「経営者と一体的な立場にある」ことを説明します。

 

(補足)

裁判所や労働者側の弁護士は、「店長は、企業経営の全体に対する関与がなかったのだから、管理監督者ではない」等と主張するケースがあります。

しかし、店長等の「担当する組織部分について経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場にあることが「経営者と一体の立場」であると考えるべき」(菅野他「労働法第13版」2024.弘文堂.417頁)との考え方が正確です。

このため、店長が管理監督者であると説明するためには、全社的な権限が必要との誤解を解き、その店舗において、店長が経営者の分身と言えるような意思決定をしていたことを説明します。

 

店長と他の従業員の待遇の違いを明らかにする

職務の権限から経営者と一体と説明した場合、残るは出退勤の裁量と賃金等の待遇という要素の説明です。

 

岐阜地裁令和6年8月8日判決は、①出退勤について欠勤控除がないこと(タイムカード打刻はある)、②基本給は月額58万円(他の従業員の3倍)で年間総支給が1100万円超(他の従業員の2倍超)、③他の従業員と異なり店舗売上全体に対するインセンティブありとの要素を、管理監督者に該当する理由の一つに上げています。

 

他方で、月額固定賃金が40万円前後、管理職手当3万円〜5万円という待遇の事案で、裁判所は、管理監督者にふさわしいくらいに高額とは解し難い等と判断し、管理監督者に該当しない理由の一つにしています。

 

ただし、待遇は一つの考慮要素に過ぎません。

例えば、給与合計72万円(会社の給与体系から外れた厚遇)の「管理本部経理部長」で部下8名(従業員総数20名)の上司であった原告について、仕分けの処理しか決定権限をもっておらず、その他の事項は直属の上司(B本部長)の確認や指示を受けていたこと等といった権限を踏まえて、管理監督者に該当しないと判断したケースもあります(東京地裁令和4年4月13日判決)。

なお、上記マクドナルド事件の店長の年収は700万円~600万円程度とされています。

 

店長が管理監督者に該当しない可能性の高い事案での対応

ここまで見てきたとおり、店長が管理監督者に該当し店長への残業代の支払いが不要となるケースは非常に限定的です。そのため、店長が管理監督者に該当せず、判決になれば、多額の残業代の支払いを命じられることも少なくありません。

しかし、店長が管理監督者に該当しないことが予想される事案でも、相手の言いなりになって不当に高い残業代を支払う理由はありません。

次のようなポイントを踏まえた対応により、適切な和解での解決を図ることになります。

 
  • 採用時の条件・雇用契約書を足がかりに説明する
  • 職務権限について最大限有利な主張を説得的に語る
  • 話し合いによる解決を試みる
 

実際に、当職が対応した事案でも、現場業務が多く管理監督者に該当しない要素のあった労働者について、上記のような対応を講じた結果、低い金額での和解を成立させることができました。この事案は管理監督者にこだわった場合、残業代として1100万円超の支払いを命じられることが想定された事案でしたが、わずか7%程度の金額での解決となりました。

 

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地元岡山を起点に「経営者の抱える労働問題を解決する」ために尽力いたします。

 

執筆者の紹介

弁護士名:稲田拓真

2018年3月岡山大学法学部卒業。2019年12月弁護士登録。2024年1月岡山弁護士会に登録。経営者側の労働問題を得意分野とする。

 

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