部下から上司に「逆」パワーハラスメントを行う問題社員にお悩みではありませんか。
今回は、最新裁判例などを題材に、逆パワハラを行う問題社員への対応を解説します。
設例
総務部の部下が、次長に対して「気持ち悪い」「頼りないにもほどがある」等と侮辱的な言動をしています。このような逆パワハラともいうべき事態に、会社はどう対応すべきでしょうか。
逆パワハラへの対応
- 逆パワハラへの対応に成功した裁判例を知る
- 具体的な言動を記録に残す
- 就業規則に沿った懲戒処分を行う
- 改善しない場合には解雇などの処分を行う
逆パワーハラスメントの対応に成功した裁判例を知る
上司から部下に対する逆パワハラについて参考となるのは、東京地裁令和6年3月21日判決です。
この事案では、部下(原告)から上司に対して「〔上司が原告のパソコンの画面を見たことについて〕いい歳のおっさんが目くじらをたてるところではありません。・・・ストレスを感じ、かつ気持悪いので、そういう行為は止めてください。」とのメールや上司の担当業務のミスを指摘する際に「総務のトップとして、頼りにならないにも程がある」とのメールを送った事案です。
裁判所は次のように判断し、言動を理由とする懲戒処分(降格)を有効と判断しました。
- メールの内容は上司に対する礼節を欠く表現を用いて非難するものであるとともに監督行為を理由に上司を抽象するものでもあるため、「原告の上司に対するハラスメントというべきものであり、職場規律違反に該当し部下と上司との関係といった企業秩序の根幹にあるものを乱す行為である」ため、懲戒事由に該当する
- 降格の懲戒処分(グレードが下がり基本給が2万円減額)は、原告に対する懲戒処分が初めてであったことなどを踏まえても、上記の非違行為の内容及び程度に照らせば、重すぎるということはできない。
このように上司に対する言動であっても、業務の適正な範囲を超えたものは、上司に対するハラスメント(逆パワーハラスメント)になり得ます。
この他、裁判例としては、上司に対し、「仕事に対する能力について尊敬できる点がほとんどありません」とか「〔やりたくない仕事を命じることは〕人事上の立場を超えた単なるハラスメントであります」等と述べた部下に対する出勤停止3日の懲戒処分を有効とした事案(東京地裁令和7年3月13日判決)もあります。
逆パワーハラスメントの具体的な言動を記録に残す
上記の逆パワーハラスメントに対する懲戒処分に成功した事案には、いずれも、具体的な逆パワハラ発言を特定していたという特徴があります。
「上司を侮辱した」程度の抽象的な事象では懲戒処分ができないケースがほとんどです。
他方で、裁判例のように具体的な言い回しが明らかになると、そのことを前提とした処分なども行いやすくなります。
裁判例はメールでの発言が記録に残った事案です。
口頭で上司に対する逆パワハラ発言を行う場合には、次のような厳重注意書を作成します。
貴殿は2025年●●月●●日、上司であるAが、会議の資料作成を指示した際に、Aに対し、「無能な上司に用事はない」「資料作成をさせるのはパワハラになりますよ」等と述べました。
これらの発言はいずれもAを侮辱するものであり、「・・・」との懲戒事由に該当する言動です。
取り急ぎ、貴殿に対し、同様の発言を行わないように本書で警告します。
なお、これらの発言に関する処分は追って検討の上、必要に応じて貴殿に連絡します。
※記憶が鮮明なうちに作成し、本人に交付します。その際には、本人の見解も確認することで予後のトラブルを防ぐことができます。
就業規則に沿った懲戒処分を行う
就業規則に「他の社員の職務を妨害し、または職場の風紀秩序を乱さないこと」等の懲戒事由がある場合には、懲戒処分を行うことになります。
懲戒処分の要件
懲戒処分の要件は次のとおりです。
- 就業規則に懲戒事由と懲戒の種別の規定があること
- 就業規則が周知(労働者が閲覧しようと思えば閲覧できる状態にあること)されていること
- 懲戒事由に該当する言動があったこと
- 懲戒処分が客観的合理性と社会的相当性を有すること
- 懲戒処分を通知したこと
懲戒処分の量刑相場
参考裁判例(東京地裁令和6年3月21日判決)は、2回の逆パワーハラスメントの言動を理由に降格の懲戒処分を有効としています。
また、東京地裁令和7年3月13日判決は、逆パワーハラスメント等が2か月弱で3回に及んでいた事案で、出勤停止の懲戒処分が有効となっています。
このため、具体的な言動とその頻度によりますが、出勤停止や降格などの比較的重たい懲戒処分が妥当する可能性が高いです。
これは、逆パワーハラスメントは部下から上司への反抗であり、職場の秩序を直接的に乱す言動となるためです。
懲戒処分の手続き
逆パワハラを理由とする懲戒処分に先立って、懲戒処分通知書を作成します。
その上で、懲戒処分の前に、行為者(部下)から弁明を確認する手続きを行います。
懲戒処分の前に弁明を経ないと、それだけで懲戒処分が無効となるリスクがあるためです。
改善しない場合には解雇などの処分を行う
逆パワーハラスメントを理由とした解雇のリスク
逆パワーハラスメントが重大な場合でも一発で解雇することは非常にリスクが高いです。
例えば、上記東京地裁令和6年3月21日判決は、逆パワハラを理由とした解雇を次の理由から無効と判断しています。
そして、会社に対して、逆パワハラをした問題社員の復職と賃金相当額である450万円の支払いを命じました。
原告に一部不適切な言動等が認められるものの、被告から注意指導をされながらも、これを繰り返したといった事実を認めるに足りる証拠はないから、原告について改善の余地がなかったとはいえない。
一般的に、問題のある言動を理由とする解雇にあたっては、改善可能性がないのか裁判所は厳しく判断します。
そのため、逆パワーハラスメントを理由としてすぐに解雇することは避けるのが無難です。
退職勧奨による決着を図る
逆パワーハラスメント1回で退職させる場合には、退職勧奨による退職を狙うことも考えられます。
この場合は、逆パワーハラスメントの具体的な内容を指摘します。
その上で、その言動が懲戒事由に該当することや、懲戒処分を経た上で在職し続けることのデメリット等を指摘しながら、円満退職を狙うことになります。
逆パワーハラスメントを繰り返した従業員の解雇の方法
話し合いでの退職に応じない場合、法的なリスクを踏まえた上で、解雇を行うことになります。
この場合、解雇に先立って、逆パワーハラスメントの証拠が残っているか、逆パワーハラスメントの指導の記録が残っているかを確認した上で、対応を講じます。
逆パワーハラスメントで解雇に踏み切るケースでは、会社内では逆パワーハラスメントによる言動で上司が疲弊したり職場内がボロボロになっていたりするケースが多いです。
しかし、逆パワーハラスメントが争われた場合には、裁判所にとっても逆パワーハラスメントの悪影響や改善の可能性がないことが明らかであることを客観的な証拠から明らかにする必要が出てきます。
このため、裁判所の見え方も意識して解雇に踏み切るか否かを選択することが必要となります。
解雇に踏み切る証拠が不足している場合には、3か月程度、労働問題に強い弁護士によるサポートを受けることで、紛争になることなく解決できるケースもあります。
それでも問題社員にお困りなら
ここまでの対策を取っても解決しないケースでは、岡山の労働問題に強い弁護士にご相談ください。
弁護士が「次の一手は何をすべきか」を提案し、書面づくりなどを代行し、面談の立ち合いなども行います。
労働問題に6年以上取り組んでいる弁護士が直接サポートしますので、素早い回答と的確な助言で「問題社員にどう対応しようか」という悩みを解消できます。
「解雇を争った社員との紛争を1か月半で解決」「経営者に反発する社員の退職に成功」など、岡山でも多くの事案を解決しています。
地元岡山を起点に「経営者の抱える労働問題を解決する」ために尽力いたします。
執筆者の紹介
弁護士名:稲田拓真
2018年3月岡山大学法学部卒業。2019年12月弁護士登録。2024年1月岡山弁護士会に登録。経営者側の労働問題を得意分野とする。