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Q 休職を繰り返す社員への対応は?

弁護士の回答ポイント

  • 休職を繰り返す社員への対応で会社が踏みやすい5つの落とし穴と、それぞれが問題となる理由
  • 就業規則の整備・記録収集・産業医の活用・退職交渉の進め方という4つの実務対応の大枠
  • 弁護士に依頼することで会社側の負担を軽減できる具体的な場面

このようなトラブルでお悩みではありませんか

「メンタルの不調で休職し、復職したと思ったらまた休職した」

「3ヶ月休んで1ヶ月出勤して3ヶ月休むという働き方を繰り返している」

何度も休職を繰り返す従業員の対応に悩む人事労務担当者の方からの相談は少なくありません。

今回は、休職を繰り返す社員への対応について、会社が陥りやすい落とし穴・実務上の対応方針・弁護士に依頼するメリットを順に解説します。

注意すべき事項――経営者が踏みやすい5つの落とし穴

休職を繰り返す社員への対応では、「よかれと思ってとった行動」が後から法的な問題になるケースが少なくありません。以下の5点は、当職が相談を受ける中で経営者が特に引っかかりやすいポイントです。

落とし穴① 「繰り返した」という事実だけを解雇の理由にしてしまう

「3回も休職した。もうこれ以上は無理だ」という理由だけで解雇すると、裁判所から「客観的に合理的な理由がない」として解雇が無効と判断されるリスクがあります。

裁判所が解雇の有効性を審査する際は、「休職を繰り返した回数」ではなく、「就業規則上の休職期間の上限を通算で超えたかどうか」または「客観的に就労継続が不可能と認められるほどの就労不能状態が続いているかどうか」という点を見ています。

裁判例(無効):複数回の休職があっても休職期間が残っていたため解雇が無効(東京地裁平成17年2月18日・労働判例892号80頁)

【事案】 躁うつ病で第1回休職(約7か月)後に復職し、その後、再発により出勤できなくなったタイミングで、会社が労働者を解雇した事案。会社の就業規則では最長休職期間は2年となっていた。

【裁判所の判断】 前回の休職は7か月余りにすぎず、休職が可能な期間が残っているため、治療効果が期待できるなら再び休職させるべきであるとして、再び休職させないまま行った解雇を無効とした。

【教訓】 複数回の休職があっても、通算してなお就業規則上の休職期間が残っている段階での解雇は無効になる。

落とし穴② 就業規則に通算規定がなく、期間が「リセット」されてしまう

就業規則に「同一または類似の傷病による休職は通算する」という規定がない場合、復職のたびに休職期間がゼロから再スタートします。

3回休職しても、毎回「初回扱い」になってしまい、いつまでも休職期間の上限に達しないという事態が生じます。

通算規定がなければ、複数回の休職が積み重なっても、「休職期間を使い果たした」という事実を会社が示すことができません。

これは、後述の退職扱いや解雇のいずれの場面でも会社側に不利に働きます。

▶ 通算規定がない場合でも、トータルの休職・欠勤期間が著しく長期にわたり、主治医・産業医双方が就労不能と判断し、復職見通しが立たないケースでは、「心身の故障による就労不能」として解雇が有効となる余地はあります。

ただし立証のハードルは高く、リスクを最小化するには就業規則の整備が先決です。

落とし穴③ 診断名が変わると通算を争われる

「前回:適応障害、今回:うつ病」のように診断名が変わると、従業員側から「前回とは別の病気だから通算されない」と主張されるリスクがあります。就業規則の通算規定が「同一の傷病」という文言にとどまっていると、この主張が認められやすくなります。

実際の相談事案では、診断名の変化を根拠に通算を拒否した従業員が、休職期間をリセットして再度の休職を主張したケースも経験しています。

▶ 「同一または類似の傷病(病名が異なる場合でも、原因・症状が共通する場合を含む)」と詳細に規定することと、産業医から「前回と同一・類似の傷病かどうか」の意見書を取得することが有効な対策です。

落とし穴④ 復職可否の判断を会社単独で行い、解雇が無効になる

主治医が「復職可能」という診断書を出しているにもかかわらず、会社が独自に「まだ無理だ」と判断して解雇した場合、裁判所が「復職可否の判断が恣意的だ」として解雇が無効になることがあります。

逆に、主治医が「復職可能」としているのに、会社が「まだ就労不能だ」と主張する場合は、会社指定医または産業医の意見書が客観的な根拠として機能します。

主治医の判断と異なる結論を出す場合は、必ず第三者的な医師の意見を取得してください。

 

どのような対応をとるべきか

上記の落とし穴を踏まえた上で、会社が取るべき実務対応の大枠を4つに整理します。

対応① 就業規則を整備する

すべての対応の前提は就業規則です。以下の規定が整備されているかを確認してください。

  • 欠勤前置規定:「欠勤が○か月継続した場合に休職を命じる」(これがないと休職発令自体が無効になるリスクがある)
  • 休職期間の上限:勤続年数に応じた合理的な期間設定
  • 通算規定:「同一または類似の傷病による休職は通算する(病名が異なる場合も原因・症状が共通する場合を含む)」
  • 短縮規定:「過去に同一・類似の傷病で休職したことがある場合は休職期間を短縮する」(例:初回は最大12か月、2回目以降は最大6か月)
  • 期間満了退職規定:「休職期間が満了しても復職できない場合は退職とする」

▶ 就業規則の整備は「問題が表面化する前の平時」に行うことが原則です。

すでにトラブルが起きている段階での変更は「狙い打ち」と主張されるリスクがあります。

また変更は労働者に不利益な変更となり得るため、手続きに注意が必要です。

対応② 記録・証拠を収集する

退職交渉・訴訟のいずれの場面でも、客観的な記録が会社側の最大の武器になります。今から以下の資料を系統的に収集・保管してください。

  • 休職・欠勤の記録:各休職の開始日・終了日・傷病名(診断書の写しと台帳)、欠勤・遅刻・早退の記録
  • 就労不能に関する記録:主治医の診断書、産業医・会社指定医の意見書(「就労不能」「同一・類似の傷病」の判断を含むもの)
  • 業務上の支障の記録:他の従業員への負担増加を示すメール・業務日報、代替要員のコスト記録
  • 指導・コミュニケーションの記録:面談議事録(日時・出席者・発言内容)、メール・書面のやり取り、電話をかけた日時のメモ

対応③ 産業医を活用する

産業医は、復職可否の判断・通算の根拠・就労不能の認定という3つの場面で会社側の重要な証拠を作ってくれる存在です。

  • 復職面談への関与:主治医が「復職可能」としている場合でも、産業医が「就労条件付きでないと復職不可」と判断することで会社側の立場が強くなる
  • 傷病の同一性の確認:「前回の適応障害と今回のうつ病は同一・類似の傷病である」という産業医の意見書は通算規定適用の根拠として有効
  • 就労不能の認定:産業医が「就労可能時期の見通しが立てられない」と意見を述べた事実は、解雇の合理的理由の根拠となる(前掲の令和5年判決参照)

対応④ 退職交渉を進める

記録・証拠が揃い、就業規則上の手当てができたら、退職の話し合いを進めます。目指すのは「解雇」ではなく「合意退職」です。

  • 退職を求める理由は客観的な事実に基づいて説明する(「○月から○回の休職があり、就業規則の通算規定上○か月の期間が経過しています」)
  • 即答を求めず、考える時間を与える
  • 面談は短時間(30〜60分程度)で区切り、繰り返し圧力をかけない
  • 面談の内容は毎回記録する(日時・出席者・発言内容・本人の回答)
  • 退職条件(退職金の上乗せ等)の提示は弁護士と確認の上で行う
  • 本人が合意したら速やかに退職合意書に署名・捺印してもらう
裁判例(有効):通算規定の適用+就労不能で解雇が有効に(東京地裁令和5年12月14日・最高裁令和7年1月17日決定で維持)

【事案】 適応障害で2年超の休職→復職→時短勤務継続→通常勤務後も週1回通院・欠勤が続く→再び適応障害で4か月超の連続欠勤。

就業規則の通算規定を適用し最長休職期間を超過。主治医・産業医いずれも就労不能と判断し復職見通し立たず。

【裁判所の判断】解雇事由(身体または精神の障害等により業務に耐えられないとき)に該当し、解雇有効。最高裁まで結論維持。

【教訓】 この事案では、通算規定の通算期間を超えた後に再び休職となりました。

しかし裁判所は、休職期間の上限分すでに休職をしていたことや、復職後も欠勤等が多くフルタイムで働けていなかったことを踏まえて解雇事由があると判断をしています。

実際に欠勤や休職した期間の長さや、復職後の勤務状況が重要なポイントとなることを示しています。

弁護士に依頼するメリットはなにか

休職を繰り返す社員への対応は、就業規則の整備から退職交渉の進め方まで、法律的な判断が求められる場面が多くあります。

当事務所では、次のような形で会社側をサポートしています。

就業規則の整備・リスク診断

現在の就業規則に通算規定・短縮規定・期間満了退職規定が適切に設けられているかを確認し、不備があれば修正案を作成します。

また「この従業員に対して今の就業規則で対応できるか」という個別のリスク診断も行います。

書類のドラフト作成

休職命令書・就労禁止通知書・復職審査依頼書・産業医への情報提供書・退職合意書など、対応の各段階で必要となる書類を作成します。

書類のタイトル・文言一つが後のトラブルの原因になることがあり、経験を踏まえた文案作成が会社側のリスクを低減します。

退職交渉への同席・代理

退職の話し合いに弁護士が同席または代理することで、「会社は本気で動いている」という意思が伝わり、交渉が進みやすくなることがあります。また、発言内容を記録・管理することで「退職強要だった」という後からの主張を防ぎます。

当職が退職交渉に関与した事案では、弁護士の関与により比較的早期に合意に至ったケースも経験しています。

産業医との連携支援

産業医への情報提供の仕方、復職面談で確認すべき事項、意見書に盛り込むべき内容について、弁護士の視点からアドバイスします。

産業医と会社側・弁護士が連携することで、後の法的紛争に耐えられる証拠を整備することができます。

労働審判・訴訟への対応

退職交渉がまとまらず、従業員側が労働審判や訴訟に踏み切った場合は、代理人として対応します。

日頃から記録を積み重ねておくことで、有利な状況で紛争に臨むことができます。

まとめ

休職を繰り返す社員への対応のポイントを整理します。

・ 「繰り返した回数」ではなく「通算した期間が就業規則の上限を超えたか」「就労継続が客観的に不可能か」が解雇・退職扱いの可否を分ける

・ 就業規則に通算規定・短縮規定・期間満了退職規定がなければ、いざというときに対応できない

・ 診断名が変わっても「同一・類似の傷病」として通算できるよう、就業規則の文言と産業医の意見書を整備する

・ 復職可否の判断は主治医だけでなく産業医・会社指定医の意見を踏まえて行う

・ 退職交渉は「退職強要」にならないよう進め方を設計し、すべての面談を記録する

・ 就業規則整備・書類作成・退職交渉代理・訴訟対応は弁護士との早期連携で会社側のリスクを大幅に低減できる

 

最後に:岡山の労働問題に強い弁護士のご紹介

「従業員から訴えられた」「問題社員がいて会社だけでは手に負えない」といったケースでお悩みではございませんか。

経営者側の労働問題は弁護士でも得意、不得意が分かれる領域で、対応によっては多額の賠償を要することも珍しくありません。

他方で、弁護士によっては紛争にならない円満解決に向けたサポートができることもあります。

弁護士稲田拓真は、6年以上問題社員の対応などの労働問題に取り組み続けた、労働問題に強い弁護士です。

大学時代を過ごした岡山の中小企業に向けたサポートに力を入れています。

御社、あるいは社会保険労務士・税理士の先生方等では手に負えなくなった困難な労働問題は、是非ご相談ください。解決策を見つけていきます。

 

この記事を書いた弁護士の紹介

弁護士名:稲田拓真

岡山市に拠点を持つ「困った従業員・問題社員への対応」などの労働問題に強い弁護士。東京で4年以上、労働問題に対応し続けた経験を持つ。この経験や最新判例、人間心理の知識を生かし、迅速に解決策の提案と実行をサポート。「早々にご回答ありがとうございます」等の言葉をいただきながら、日々岡山の社長のために奔走している。

 

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